サムソノフの得意のサービスを封じるという一点に活路を絞りこみ、それを活かしきる試合展開に持ち込んだ戦術は、実に巧みで鮮やかだった。
ワルドナーのあとに登場した稀代のオールラウンドプレーヤーである孔令輝とサムソノフ。もし、孔に一日の長があるとするならば、必要な得点を本当にほしいときに確実にもぎとる術になるだろうか。それが世界の頂点に立った男と、いまだ途上にある男との間に横たわる、わずかだが険しい差のように思えた。
しかし、見事な戦術以上に私がうならされたのは、孔の調整の仕方だった。調整というと、疲れを残さないという体調面のコンディショニングに重点がおかれ、ややもすると「軽めの練習で切りあげること」ととらえられている節がある。それはそれで誤りのない方法なのかもしれない。しかし……。
世界の頂点に2度立った男は、違った。
断じて、鞭を緩めなかった。
不安をできる限り拭い去ろうと、直前まで必死にもがいていたのだ。
私は孔のうしろ姿によって、調整の本質を教えられた思いがした。
練習会場から見える風景(12)
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