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『完本 1976年のアントニオ猪木』を語れ(2)(2ページ目)

『1976年のアントニオ猪木』が完本となって発売された。著書・柳澤健さんへのインタビュー続編は、猪木に挑んだ“真剣勝負という名のインタビュー”その裏側にある本音を聞いた。

執筆者:川頭 広卓

「猪木さんが賢いのは、ある程度、素直に喋ってしまおうと思っているところ」

――アリ戦についても語ってくれてますよね。

「アリは本当に凄いよね。これだけ読んでも凄いでしょ?今、岩波現代文庫から、『モハメド・アリ その生と時代』(トマス・ハウザー著)っていうのが出ているけど、あれは読んだ方がいいよ。凄く面白いから。単行本は東京書籍から出ていたんだけど。

本当は「1976年のアントニオ猪木」も、証言集にしようと思ったの。この本が証言集になっていたから。構造が違うから、結局証言集にはならなかったけど。『モハメド・アリ その生と時代』を書いたトマス・ハウザーって人は、ありとあらゆる人にインタビューをするんだけど、最初にアリのところに行って“俺のことをいいことも悪いことも全部喋ってくれていいから”っていう手紙を書いてもらって、その手紙を持って色んな人のところに行く訳ですよ。

それこそ、別れた奥さんとか、対戦相手とか・・・。物凄く面白い。私の本を読んでアリに興味が湧いた人は絶対読んだ方がいいと思う。私にとっては、スポーツライティングの極北ともいえる本です」

――「完本1976年のアントニオ猪木」のあとがきでも、「猪木にとってプロレスも格闘技も余技にすぎず、猪木の興味は珊瑚やキューパ沖の沈没船にあり、・・・」という一行がありますが、既に猪木さんの興味がプロレスにはない以上、“完本――”は、公式というか、非公式というか、最後の猪木本っていうことになるのではないでしょうか?

「オフィシャルは“アントニオ猪木自伝” (新潮文庫)でしょう。あれはあれで完成しているものだと思うし、私の本は私の本で、もう一つ別のかたちで完成していると思う。世界観がまるで違うから」

――ちなみに、昨年、IGFでプロモ用のインタビューがあった際に、猪木さんはご自分のペースで気持ちよく受け答えをしながらも媒体別にしっかり言い分けていました。

「多分、猪木さんっていうのは、“手の内を明かすことほど損なことはない”と思っているんだと思います。学校には行ってないし、言ってることも無茶苦茶だったりするけど、本質的に頭は凄くいい。頭がよくなくては、人を動かすことはできない。

とにかく猪木さんに関わると普通のことが普通じゃなくなる訳ですよ。だから、私の本に猪木さんのインタビューが載っていること、つまり猪木さんが許可したことが異常だよね。“猪木さんが柳澤のインタビューを受ける訳がない”と思った人はいっぱいいたと思う。私だってそう思ったもの。そこが猪木さんの大きさとしか言いようがない」

――猪木さんの方も、それなりに素直に話してくれていますよね。

「猪木さんが賢いのは、ある程度、素直に喋ってしまおうと思っているところだよね。落としどころというか、こっちをある程度納得させないといけないっていうようなことを考えてる。敵地にいって、やりたいことだけやって帰ってきちゃうのはマズイと」

――ちゃんと試合をしてくれるということですね。

「そうそうそう。こっちもNumberがページを空けてくれている訳だから、インタビューを成立させなくてはならない。あのインタビューは、後から構成をいじったりしないで、ほぼ質問した通りに書いてあるんだけど、勝ち負けの話とか、やばくなりそうなそうな話は最後の方に持ってくることにした

――でも、猪木さんがこんなに素直に話しているインタビューは初めて読みました。

「時代もあるだろうね。時を経てじゃないと語れないことって、やっぱりあるんですよ。猪木さんは格闘技にも関わってしまった訳だし、プロレスと格闘技は違うものだっていう前提はすでにある。いくら猪木さんでも“俺にとっては一緒だよ”と最初からゼロにすることはできない」
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