“猪木に根こそぎ否定されたら”という恐怖――
『完本 1976年のアントニオ猪木』が出版された。語りつくせぬ、その魅力を著者・柳澤健さんに聞いた――。 |
――確かにそうですね。
「あと、猪木さんと実際に会えば、絶対負けたくなることはわかってた(笑)。だって元々ファンなんだもん。私は編集者としてそれまでに3回か4回猪木さんに会ってるけど、やっぱり恐ろしく魅力のある人ですよ。だからインタビュアーは、全員猪木さんに負ける訳。負けるっていうのは、要するに向こうの文脈に乗るってことです」
――分かります、分かります。僕らも経験があります。
「猪木さんの文脈に乗って、気持ちよく話して貰えば、お互いにいい時間が過ごせる訳でしょ?それが一番簡単なんだけど、私はそれが許されない立場であることはわかってた。だから、恐怖はあったけど、勇気を出して聞いた。
――単行本の時点では、「(猪木がインタビューを受けないのは)本書の性質上、仕方のないこと」と結んでいますが、その後、インタビューが実現し、尚且つ、その内容が文庫版の“完本――”では掲載に至りました。
「(当初、猪木さんのインタビューが実現できなかったことに)実はどこかでホッとした部分もあった。さっきも言ったけど、“自分の論理の大事な部分を根こそぎ否定されたら”という恐怖があったから。だからナンバーの編集者から“猪木さんはインタビューを受けると言ってます”って聞いた時、正直私はビビリましたね。
猪木さんに真剣勝負を挑むんだから。これまで、猪木さんにインタビューした人は星の数ほどいたと思うけど、そういう覚悟を強いられたインタビュアーは、私以外に一人もいなかったと思うよ」
――おっしゃる通りだと思います。
「だから、あのインタビューの中では、私がが聞きたいことは全部聞いた。猪木さんが必ずしもすべてに答えてくれた訳ではないけれど、これまでにないインタビューだったことは間違いない。猪木さんには、言いたくないことは言わない権利がある。裁判じゃないんだから。
ナンバーのためにやったインタビューを文庫版に収録するにあたっても、色々あったけれど、最終的に猪木さんが再録を許可してくれたことが、猪木さんのこの本に対する評価だと勝手に思っている。優良可のどれかは知らないけど、不可ではなかったということなんじゃないのかな」