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K-1,PRIDEの引き抜きは許さない!「ボクシング界からの絶縁状」(下)(4ページ目)

ついにボクシング界がPRIDE、K-1からの選手引き抜きに対して、強硬な対抗措置を打ち出した。この流れはボクシングと新興格闘イベントとの「絶縁状」になってしまうのか。

執筆者:井田 英登

M&A戦国時代の構図は、格闘技界でも

今回のケースで言うなら、なぜボクシング協会関係者が「鎖国」を言い出す前に、K-1はきちんと組織として提携提案なり、選手交流のルール作りに動こうとしなかったのか? それが今回の西日本ボクシング協会の、半ば苦し紛れのような「鎖国宣言」を引き出してしまった気がする。その結果、元ボクサーの選手たちが、いざ引退後指導者としてボクシングに携わろうとしても許されないと言う、いびつな構図を作り出してしまったことはあまりに空しい。

“競技”として腰が据わらない世界に身を投じてしまった選手は、間違えなく不幸である。結局選手として達成すべき目標がきちんと設定されないままで、短い現役時代を“消耗材”として浪費されてしまうからだ。

その意味で、保守的に過ぎるとしても、“安易な転向は許さない”とするボクシング側の態度にこそ、一票を投じたい。

ボクシングは既に長い歴史を持っており、内部的にも外部的にも確固たる権威が確立されている。本来、その価値観に則って粛々と選手育成を行えばいい運動体なのである。斬新な変化を望むより、受け継いだ価値観を粛々と守るべき状況にある。

そんな競技の関係者にとって、K-1やPRIDEが“選手引き抜き”という極端な手段に走る事は、全く理解できない“不可解な熱意”に映るはずだ。ボクシング界にも“引き抜き騒動”は付き物だが、ジムやプロモーターはあくまで「勝てる選手」を欲しがるもの。わざわざ“潰す”目的で「噛ませ犬」に莫大な金を積むのは、八百長の負け役を飲ませるぐらいの異常なシチュエーションの話だ。通常まず考え得る話ではない。

元を質せば、その“不可解な熱意”は1970年代にアントニオ猪木が、モハメド・アリやヘーシンクといった既成の競技の格闘家をリングに上げ、“異種格闘技戦”という特異な手法で、プロレスの地位向上に使ったやり方を安易に受け継いだモノに過ぎない。(そしてボクシング界からすれば、同じ70年代に経験したキック界からの侵攻が思い起こされる事であろう)正直、ジャンル内でスター選手を育成できない新興競技の下品さが現れた、イヤな方法論だと僕には思えてならない。

近年、IT系の“新興”企業社長達が、既成メディアの株買い占めを繰り広げた騒動は、まだ皆さんご記憶に新しいと思う。彼らの主張する、強引なM&Aや合併提案に眉をひそめる人も多いだろう。しかし格闘技界での引き抜き騒動は、結局それと根っこの部分で同じ構造を持っているのだ。独自の技術や顧客を持たない“新興”企業が、資本の論理でそれまで地道にノウハウと信用を積み重ねて来た企業の“資産”を横取りする。仮に我が物に出来なくても、乗っ取り騒動が世間の話題になる事で知名度を上げ、それによって自らの企業に利すれば良いとする考え方なのだ。

本来スポーツのクリーンな感動を商品とすべきイベント主催者が、そんな“やらずぼったくり”的なゲリラ戦術に身をやつす事自体、正当な社会認知を遠ざける行為なのである。そんなやり口で、長期にわたるファンの信頼を勝ち取ることは絶対に出来ないはずだ。

この件に関しては、いつまでも柔道界やレスリング界や、総合の先行団体からの人材補給に頼り続けるPRIDEも全く同罪と言える。仮にもメジャー団体として、多くのファンの耳目を集める立場になった今、そのポジションに応じた品位と自覚を、二大団体には是非望みたい。

また、こうした「引き抜き騒動」の最大の問題は、やはり引き抜かれる立場の選手自身の中にあることも忘れてはなるまい。

今の時代に「武士は喰わねど高楊枝」を決め込めとは言わないが、どんな競技であれ最初にそのスポーツを志した時は、自ら選んだ競技に対する誇りと愛情があったはず。その入門時に立てた“青雲の志”を、金銭の天秤に乗せてしまうということは、要するに自分の技量を「商品」として切り売りしているだけの話。そんな浮ついた気持ちで転校先の競技に参加しても、所詮転向先の選手の強さを証明する“闘牛牛”扱いされて、最後はお払い箱になってしまうだろう。当然、そんな事では、経済的成功も逃げて行ってしまう。

「隣の芝生は青い」とばかり、他所のジャンルに浮ついた視線を投げている場合ではない。主催者も、そして選手も、もう一度原点に戻って“自分たちのスポーツ”を愛し、成長させる事をまず一番に考えるべきではないだろうか。
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