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アビディVSバンナ遺恨試合の向こうに K-1パリ:遺恨試合はもう要らない(2ページ目)

K-1パリ大会でのアビディVSバンナの遺恨試合は、異常な盛り上がりを生んだ。だが、競技として再生を目指すK-1の今に、この試合は必要だったのだろうか?

執筆者:井田 英登

モンスター路線は死んではいなかったのか?

だが、あえて“綺麗事”を貫いて主張しておきたい部分がある。

思い出しても見て欲しい。かつてファンから総スカンを食った「K-1モンスター路線」は、結局視聴率最優先主義の産物である。この戦略が打ち出された2003年当時は、脱税問題で経営トップを退いた初代プロデューサー石井和義氏から、格闘技評論家である谷川貞治氏にイベント運営がバトンタッチされたばかりの時期であった。

石井氏がそれまで打ち出して来たK-1運営方法は、まず先に理念ありきで、壮大なビジョンを打ち上げ、経済的にもコンテンツ的にもそれに当てはまる要素を、その卓越した交渉力でかき集めて行く、ある種の理想主義的側面を持った物だった。したがってファンは、石井氏のぶちあげる「夢のプラン」に安心して酔っていればよかったような面がある。

一方、その後継者に指名された谷川氏は、長年“傍観者”として格闘技ビジネスを観察して来た人で、石井氏のようなハッタリも豪腕のネゴシエーション技術もない。むしろ石井氏が一代で作り上げたK-1ブランドとコネクションを如何に維持し、磨き上げるかがテーマになっていたのだと思う。彼がその方法論として選び取ったのは、徹底した現実路線であった。

“地上波TV中継で試合を見るファンは格闘技に詳しい人間ばかりではない。もっと判りやすいインパクトのある『事件』や『キャラクター』を投入して、一般ファンを取り込もう”という、ある意味ファンを見下した“経営判断”が「モンスター路線」として結実したわけである。視聴率的には確かに数値は残った。スポーツコンテンツとしてクリアな競技運営を望んだフジテレビや日本テレビとの軋轢も生んだようだが、一方ではTBSとのコラボレーションによるMAXやDynamite!!という大ヒット商品も出たわけで、とりあえず“k-1経営者・谷川貞治”としての評価は定まった感がある。

だが、こと、格闘技最前線にあっては、コアなファンの反発を生み、大看板である「K-1 World GP」に対する、シビアなバッシングが生まれた。本来、このコア層を相手に編集者/評論家として活動して来た谷川氏としては、内心忸怩たる物があったのではないだろうか。今年に入って、「K-1 World GP」のブランド力回復のために、曖昧な判定を排除し、公正な競技運営を目指すと言うアナウンスが出され、そのトレードマークも「白/黒」を明快にするという意味を込めたモノトーンの新CIに切り替えられる事になったわけだ。

かくして今、K-1が競技へ回帰してファンの信頼を取り戻そうというのであれば、もっと神経質に競技性を重んじた運営を行い、それを楽しんでくれる「ホンモノのファン」を育てて行く時期なのではないのかと思う。その意味で、僕もさらに現場を見つめる目に、シビアさをくわえようと思っている。

例えば、他のスポーツジャンルで、私生活の遺恨をテーマに試合が組まれる例があるだろうか? 仮に巨人の打者某と、阪神の投手某が私生活で犬猿の仲であるとして、ことさらに巨人阪神戦がリーグ戦のスケジュールを差し置いて開催されたり、またその両選手の対決が投手ローテーションやレギュラー編成を無視した形で実現するように、球団が働きかけたり、そんなことがあり得るだろうか?

野球だから? いやサッカーでも、ゴルフでも、同じ格闘技のボクシングであってすら、まずあり得まい。

競技としてのスポーツがビジネスとなり、粛々とその“内容”が売られている世界ではそんな事は起こりえないのだ。一選手のエゴや、選手のスキャンダルが、競技運営に作用し、またファンがそれを面白がるなどという事があるわけもないし、あってはならない。

それが正しいプロスポーツの有り様というものであろう。

例えば、それが“たまたま”リーグ運営中の一対決の中で、普通の用兵上実現してしまったなら仕方が無いし、ファンもそれを楽しめばいい。マスコミが、遺恨対決を煽るのも、決して悪い事ではあるまい。

だが、その大前提にあるのは、競技の運営軸が揺らいでいない事、それに尽きる。

誰と誰が仲が良かろうが悪かろうが、試合は全ての選手に公平に組まれ、プロフェッショナルの技術を提供する事で、興行がきちんと成立していること。

バンナとアビディに遺恨があり、それがイベントの話題性に寄与しそうだと思っても、そこでイベンターが考えるべきことは、“競技運営の連続性の中で実現しそうか?”ということだと思う。
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