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元Jリーガー矢野マイケル・どん底からの挑戦 「ある敗者復活戦(上)」(2ページ目)

K-1ファイターを目指す元Jリーガー矢野マイケルが、今話題だ。しかしその華やかな話題性の裏に秘められた、再生への思いを知る人は少ない…

執筆者:井田 英登

「元Jリーガー」は勲章ではない


今回、僕がマイケルの存在に注目した理由は、これらのマスコミ報道とは全く逆のベクトルによるものだった。

五月の中旬のことだったと思う。格斗空手維新のリーダーである山口龍氏から「ウチに面白い選手が居るので見にきませんか」というメールをもらったのである。元Jリーガーで、ガーナ人とのハーフ。現在K-1 MAXを目指していくつかのアマチュア大会に出場しているという背景も当然添えられてはいたが、この程度の話なら正直この商売をやっていれば幾らも聞くレベルの話である。実際、今回マイケルの記事で『初のJリーグ出身のプロ格闘選手』などと書いているマスコミも多いが、そんな事はない。同じIKUSAに以前出場した某選手なども、前歴はれっきとしたJリーガーだったりするのである。ただ彼にしてもサッカー時代は不遇であり、決して日本代表に手が届くような活躍はしていない。だからことさらに成功しなかった前歴をオープンにしたがらないのである。


しかし、山口氏の格闘技を見る目の確かさは、Boutreview時代から非常に信頼のおけるものだった事もあり、僕は5月23日の取材予定のなかった藤原敏夫杯に足を運んだ。会場の台東区スポーツ会館武道場は応援の道場関係者で一杯だったが、マスコミ関係者の姿はほとんどない。それもそのはず、同じ日に横浜アリーナではPRIDE武士道が開催されていたのだ。某専門誌の編集長を一人見かけたが、それも実のところ主催の藤原会長との個人的付き合いの産物。ましてPRIDEの舞台裏に群がっているようなスポーツ新聞、ネット系媒体の記者など一人も居ない。格闘技業界の力学からいえば当然の話であった。無論掛け持ち取材は不可能ではないが、普通日曜日の朝から、アマチュア大会をカバーしようなどと言う酔狂な記者はめったに居ない。やたら格闘技ブームのかけ声ばかりが高いが、どんなにぎやかな事を言われていようとシーンの底辺と言うのはそういうものなのである。

そんな名も無いアマチュアたちが汗を流す畳敷きの道場に、ひときわ異彩を放つ青年が居た。

漆黒の肌に、コーンロウに編み込んだ縞模様のへアスタイルがまず目を引く。彼の周辺には、兄弟だろうかやはり若いスキンヘッドの黒人青年や同じ年頃のスタイルのいい黒人女性、頭にバンダナを巻いたB-Boy風のHIP HOPファッションに身を包んだ友人などが一群を成している。深夜のクラブならともかく、格闘技関係者ばかりの大会会場には明らかに不似合いな客層だ。だがそれらの要素がなくても、長い手足にしっかり筋肉のついた彼のシェイプは、それなりに鍛えたアマチュア格闘家の中でも群を抜く存在だった。一方でこれから殴り合いに行く人間には見えない、優しく涼しい目つきをしているのが印象的だった。
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