「元Jリーガー」は勲章ではない
今回、僕がマイケルの存在に注目した理由は、これらのマスコミ報道とは全く逆のベクトルによるものだった。
五月の中旬のことだったと思う。格斗空手維新のリーダーである山口龍氏から「ウチに面白い選手が居るので見にきませんか」というメールをもらったのである。元Jリーガーで、ガーナ人とのハーフ。現在K-1 MAXを目指していくつかのアマチュア大会に出場しているという背景も当然添えられてはいたが、この程度の話なら正直この商売をやっていれば幾らも聞くレベルの話である。実際、今回マイケルの記事で『初のJリーグ出身のプロ格闘選手』などと書いているマスコミも多いが、そんな事はない。同じIKUSAに以前出場した某選手なども、前歴はれっきとしたJリーガーだったりするのである。ただ彼にしてもサッカー時代は不遇であり、決して日本代表に手が届くような活躍はしていない。だからことさらに成功しなかった前歴をオープンにしたがらないのである。
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そんな名も無いアマチュアたちが汗を流す畳敷きの道場に、ひときわ異彩を放つ青年が居た。
漆黒の肌に、コーンロウに編み込んだ縞模様のへアスタイルがまず目を引く。彼の周辺には、兄弟だろうかやはり若いスキンヘッドの黒人青年や同じ年頃のスタイルのいい黒人女性、頭にバンダナを巻いたB-Boy風のHIP HOPファッションに身を包んだ友人などが一群を成している。深夜のクラブならともかく、格闘技関係者ばかりの大会会場には明らかに不似合いな客層だ。だがそれらの要素がなくても、長い手足にしっかり筋肉のついた彼のシェイプは、それなりに鍛えたアマチュア格闘家の中でも群を抜く存在だった。一方でこれから殴り合いに行く人間には見えない、優しく涼しい目つきをしているのが印象的だった。