3、序盤の打撃戦で決着
もうここまで書いてくれば、グラップラー二人の勝利がフロックでもなんでもなかったことはお分かりいただけると思う。ただ、唯一勝者側に幸運であったポイントがあるとすれば、この勝負が序盤のアタックでずばり勝負がついたことだろう。
レコが小川の最初の突進を捌いていれば、総合初戦で浮き足立ち気味だった気分も落ち着いていたであろうし、同じスタンド勝負でもテクニックによる長期戦になっていれば、小川があそこまで攻め込めたかどうかはわからない。サッカー同様、ラウンド開始直後と終了直前は選手の心理に隙ができる魔の時間帯なのである。最初の30秒にまさかのダウンを喫したレコが、バタバタと畳み込まれてしまったのは、その隙に乗じた小川のゲームメイクのセンスの良さのせいでもある。あまりにツボに入った攻撃の連続に、プロレス的なフェイクのにおいを感じたファンも多かったようだが、それはうがちすぎというもの。
テレビ放映で流された“一撃”の瞬間のレコの目は完全に飛んでいたし、幾ら金を詰まれてもあんな無防備に頭を差し出していたら、体が持たない。K-1からの移籍第一戦ということもあり、負ければ次に上がるリングがなくなっても不思議はない立場である。第一、そんな安易な仕掛けを引き受けるほどレコは自意識が低い選手ではない。自分の放ったローブロー連打で負けたくせに、ひたすら「不幸だ、不幸だ。俺は何も悪くない」と愚痴り倒し、「俺がK-1で勝てないのはジムの練習方法が間違っているからだ」と国境を越えたオランダのゴールデングローリーに移籍、バスでトコトコ通うような狷介至極な男が、どうして八百長のような“愛他的”な行為が出来ようか。
閑話休題。
一方のミルコにしても、勝負の分かれ目はランデルマンの運動量と瞬間の反射がどこまで続くかが勝負どころであったように思う。
速筋の塊のようなランデルマンの戦績がこのところ振るわなかったのは、いずれもグラップラー同士のねちっこい試合となって、後半スタミナ切れを起こしていたに他ならない。さらにいえば、子供のような性格で長期の集中力が続かないランデルマンのこと(そのせいでしょっちゅうガールフレンドが変わり、住所が一定ではない…というのも余談だが(笑))、おそらく長期戦に持ち込まれていたら、序盤の完璧な“ミルコ殺し”のディフェンスを維持できなかったのではないかと思うのだ。
その意味では、この二つの試合はいずれもストライカーとグラップラーがピンポイントの隙を突き合い、相手の得意ジャンルにまで踏み込んで勝利を狙うというトップアスリートの限界勝負であった。それだけPRIDEのリングで勝利を得るという事が、さらにシビアさを増している印象を受けた。もし明日同じカードの再戦があったなら、同じ結果が出るとは限らないマッチレースであったと言うことでもある。
これもK-1、PRIDEの二大メジャーが拮抗しながら対立するという、昨今の格闘技界の危うい政治情勢が生んだ、うれしい誤算なのかもしれない。
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