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至近距離から見た、幻のUFC王者流転の一年 「ジョシュ君のこと(3)」(2ページ目)

史上最年少のUFC王者の栄光をドーピング疑惑で奪われ、未経験のプロレス界に身を投じたジョシュ・バーネット。はからずも僕の至近距離で繰り広げられた、知られざる一年間の苦闘の記録。いよいよ終局へ。

執筆者:井田 英登

題はDEEPのラインナップにジョシュと体格の見合うヘビー級の選手が不足していることだった。友人である高阪との対戦は無理だろうし、高山はフリーなので招聘可能だがドン・フライ戦で高騰したギャラが障害になってうっかり呼べない。他の主だったヘビー級選手は多かれ少なかれ、PRIDEの傘下になる。八方ふさがりの状況だが、僕の頭にはある名前が点滅していた。

PANCRASEヘビー級王者・高橋義生である。元々PANCRASEはDEEPの旗揚げ当初から選手派遣をしている関係上、高橋をブッキングすることは十分可能だ。その前後に、高橋がぽつぽつとUFC復帰を口にしていたこともある。PANCRASE無差別級王者を破ったジョシュとUFCで初のグレイシー打破を果たした高橋の対決なら、12月に予定されていた大田区体育館大会のメインを飾るカードに、十分訴求力があるのではないか? 

早速、僕は佐伯代表にジョシュの来日を連絡し、対戦相手に高橋を当ててみればどうだろう? という提案まで付け加えて、有明大会後、彼の話を聞いてもらえるようにお願いした。

しかし、この計画はすでに皆さんも御存知の通り実現しなかった。
原因は、DEEP有明大会の不入りにあったのである。

はこの有明大会は、DEEPにとって非常に大きなターニングポイントにあたる興行だったのである。

佐伯代表の本業である出版業での成功を背景に、DEEPは旗揚げからの二年間、メジャー規模での展開を続けてきた。しかし、過去6回の大会は事業的にはいずれも失敗。かろうじて経費を節約したclub DEEPこそ黒字に転じたものの、それ以外はすべて赤字だったのである。アイディアマンである佐伯代表の打ちだす奇想天外なマッチメイクは、毎回ファンの予想を覆す熱戦を産み、大きく話題を呼んでいたため、当時、誰もそんな事実は知らなかったと思う。

旗揚げ興行では、村浜武洋がホイラー・グレイシーとグラウンドで互角に渡り合うという驚くべき結果を出し、また第2回大会の謙吾vsドス・カラスJr戦では、まさかのスープレックスTKOという衝撃の結末。また第4回では鈴木みのるとエル・ソラールが金的攻撃を巡って乱闘騒ぎを起こした。ファンにすれば「行かなくて損した」という声を上げたくなるような“事件”のオンパレードだったDEEPだが、裏を返せば、それだけ当日会場に足を運んでいた観客が少なかったという事でもある。

期待していた地上波テレビの放映オファーもいつまでたっても訪れないという状況で、佐伯代表は大会場での興行を断念する方向に傾いていくことになる。この有明大会で収益が上がらない場合は、その後のDEEPの運営方針を後楽園クラスにまで縮小しよう、と。

だが悪いことは重なるもので、大会企画時にはなかったはずの、同時期にUFO Legend , Dynamaite ! という二大イベント開催の計画が突然浮上した。かくてDEEP有明大会は、必要以上の苦戦を強いられることになる。そして、我らがジョシュは、そんな最悪のバッドタイミングで就職活動を行わなければならなくなっていたのである。

会当日、ジョシュは、お笑い物まねパフォーマンスで人気のプロレスラー一宮選手の入場パフォーマンス“偽レイシー・トレイン”の一員として、花道をうれしそうに歩いてくるという仰天のパフォーマンスで観客の前に登場して来たのだった。もちろんDEEPのお家の事情など知る由もないジョシュは御機嫌そのもの。先日の国立競技場でのマイクパフォーマンスのおかげか「じょしゅばーねっとーー」と名指しの野次も飛ぶほどの人気ぶりだった。その後も高阪や、そのチームメイトである滑川らの試合でセコンドにつくなど、一日中会場で目立ちまくり、すっかりDEEPファミリーの仲間入りを果たしたかと思うほど、会場の空気になじんでいたジョシュだった。

だが、結局この大会の入場者数は、損得分岐点にあたる1万人に届かない8000人余で終了。SAMURAI!が仲介したペイパービュウでは、契約数が一万件を越えるという意外な大健闘を見せたものの、それでも財政的には予定を大きく下回る成績に終わってしまった。この結果を受けて、佐伯代表は大田区体育館大会を白紙に戻さざるをえなくなり、大会後代表の元を尋ねたジョシュも、参戦のオファーをもらうことは出来なかったのである。
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