アテネ五輪決勝戦での「試合制御」
アテネ五輪の決勝戦は、準決勝でカナダを破ったキューバと、日本に勝ったオーストラリアの対戦だった。日本では、夕方放映だった日本×カナダの3位決定戦のみが大きく報じられ、決勝戦はテレビ朝日系列の深夜枠ということもあって、試合そのものの注目はなきに等しかった。「日本がなぜオーストラリアに負けたか」または「なんとか銅メダル獲得」が話題の中心だったからである。
前述した通り、アテネ五輪でのキューバの戦力は、日本・カナダよりも劣っていた。WBCと同様、特に投手のコマ数が足りなかった。予選リーグは日本と同様に1敗で通過したものの、開催国ギリシャの即席チーム相手に最終回1点差に詰め寄られるなど、細かく見れば苦戦を強いられていたのである。
しかし、短期決戦では戦術の巧拙がものを言う場合もある。日本チーム研究に余念がなく、その結果準決勝で1-0と快勝したオーストラリアの例もそうだ。アテネ五輪では、カナダや台湾の3A所属投手がMLB側から球数制限を受け、選手起用面から苦戦を強いられた部分があるが、そんな中、薄い投手陣をフル活用してキューバは勝ち上がった。そして特に白眉だったのが、決勝戦だったのだ。
この試合、キューバが4回表に2点を挙げ、先手を取った。しかし5回裏に試合の流れはオーストラリアに傾きかけてきた。先発ベラがソロホームランを浴び、2-1。例のごとく早い投手交代でオデリンに継投するが、オデリンの制球が定まらない。フォアボールのランナーを出した後で、そのプレーは起こった。続くオーストラリアのバッターが打った当たりはセンターオーバー、抜ければ同点打である。
世紀の誤審を勝ち取る
キューバのセンター、タバレスは、背走してこの打球を取り、ボールの入ったグローブを高く頭上に掲げた。大ファインプレーだ。審判、アウトの宣告。次の瞬間、テレビは別角度からのリプレイを映し出す。なんと、タバレスはダイレクトにフェンスに当たった打球をジャッグルしながら捕り、いったん線審の方に目をチラとやりつつ、二塁塁審めがけて捕球をアピールした。その時のタバレスの、瞳孔が開ききった目が今でも忘れられない。かくしてオーストラリアの同点打は世紀の誤審でフイになってしまったのだ。そしてこの誤審を勝ち取ったのは、紛れもなくタバレスの気迫である。
このプレーの後も、オデリンはぴりっとしなかったので、1イニングもたずに3番手のパルマに交代させられた。オーストラリアが攻め立てまくったように見えたこの回、終わってみればソロホームランの1点だけである。まさにキューバマジックの炸裂だ。
そして6回表、気落ちしたかオーストラリア先発のスティーブンスミスが再びつかまり、キューバは4点を加える。6-1。アテネ五輪のためにキューバ取材にまで行ったTV解説者の栗山氏は(キューバで試合は見ていないようだが)、「まだまだ何が起こるかわかりませんよ」と述べていたが、私にはキューバのそれからの展開が読めていた。「何もなかったフリ作戦」である。
意図的に「何も起こさない」→