野球/WBC 最新コラム

日本を苦しめたキューバ野球の「底力」(3ページ目)

第一回WBC決勝戦で日本と対戦したキューバ代表。「アマ最強」と言われ続け、この試合でも最後まで日本を苦しめ続けたキューバの「野球力」の正体を探る。

執筆者:コモエスタ 坂本

キューバ野球の特筆すべき点


第一回WBC決勝、対日本戦でもキューバ代表はその特徴をいかんなく発揮した。結果として、キューバは一度も追いつくことがなく、日本に逃げ切られた格好だが、他のチームであれば初回いきなりの4点、また5回表で1-6とリードされた時点で試合が一方的に傾いてもおかしくなかった。しかし、キューバはモチベーションを切らすことなく、一時は日本に一点差まで詰め寄った。肝を冷やした日本の野球ファンも多かった筈だ。キューバのあのしぶとさは印象に残っただろう。

WBC決勝で、キューバは立ち上がりの1回表、なんと3人の投手をつぎ込んだ。後がない試合ということもあるが、このような早い投手交代・スクランブル起用はキューバおよびベレス野球のお家芸である。すなわち、好投手であっても調子は一定でない。通用しなければすぐに次の投手を試し、被害を最小限に留める。そして多少点を取られても打って取り返す、というのが基本姿勢なのだ。

奇妙な投手リレーと野球文化の差


思えば、「投手分業制」なるものが日本に根付いて、まださほどの年月が経過したような気がしない。メジャーリーグで「抑え投手」なる地位が確立されて、セーブ制度ができ、それが日本に輸入されて同様に専業ストッパーなる職場ができ、その後はリリーフ陣の分業やローテーションが決められ、「ホールド」などという評価項目もできた。

なるほどこの投手分業制では、長いシーズンに投手を合理的に働かせることができるだろう。先発はイニング15球メドで7回ならば100球+αを投げ、その後の2イニングをセットアッパー~クローザーと継投して勝つのは理想的だ。しかし、短期決戦、特にトーナメント戦のような一発勝負では、この観念に染まりすぎているとしばしば失敗を招く。その失敗とは非常に単純な話で、投手交代の遅れである。特にその試合を信頼できる先発投手に託した場合、ひとたびピンチになっても、または多少の失点があっても、すぐには継投を考えないだろう。

しかし、キューバ野球、ベレス野球は全く違うのだ。投手はピンチを招くか点を取られれば即座に交代である。逆に考えると、投手はピンチを招かない限り続投させる。ベレス監督は、投手の調子に対して根本的に信頼を置いていない。好投手でも波に乗れない時があるし、またひとたび崩れたらあっという間だということを知っている。後述するが、「試合の流れ」を制御することにかけては、キューバ野球はかなり敏感である。これがWBC決勝でも見られた奇妙な投手リレー、すなわち初回に3投手リレー・試合合計8投手リレーのカラクリである。

キューバの投手はコマ不足だが…


この試合の先発はベテランのロメロだった。大方の予想では、エース格とみなされるオデリンだったようだが(2番手で登場)、オデリンはアテネ五輪の予選リーグで日本代表に打たれて敗戦投手になっている。そもそも、このWBCにおいてキューバのエースは誰かと問われれば、かなりはっきりしない。準決勝で投げたマルティかラゾあたりがエース格と言えそうで、日本戦に残っていたのは「万年エース格」のオデリンか、ベテランのロメロ・パルマ程度のもので、残りの多くは「若手成長株」でしかなかった。

結局、WBC決勝で最も長く投げたピッチャーは5番手のベテラン、パルマの4イニングだ。パルマはアテネ五輪の壮行試合で日本相手に好投し、またアテネ五輪決勝戦の対オーストラリア戦でも試合途中から登板して勝ち投手になっている。はっきり言って、アテネ五輪においてもWBCにおいても、キューバの投手は相当にコマ不足だったのだが、それでもこのようなスクランブル戦術によって勝ち抜けてしまうのである。

キューバの戦術において特徴的なこの投手起用は、打線への信頼と「試合の流れを制御する」という感覚に基づいている。むしろ、後者の方にキューバ野球の神髄があるだろう。私が見たキューバ戦の中で最も印象的な試合--もう2年弱が経過したが、未だ脳裏に焼き付いている一戦--などを記しつつ、キューバがいかに試合の流れをコントロールするかを語ろう。

アテネ五輪決勝戦での「試合制御」→
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