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日本を苦しめたキューバ野球の「底力」

第一回WBC決勝戦で日本と対戦したキューバ代表。「アマ最強」と言われ続け、この試合でも最後まで日本を苦しめ続けたキューバの「野球力」の正体を探る。

執筆者:コモエスタ 坂本


第一回WBC決勝戦で日本と対戦したキューバ代表。「アマ最強」と言われ続け、この試合でも最後まで日本を苦しめ続けたキューバの「野球力」の正体を探る。

キューバに対する二つの誤解


これまで数々の国際大会で優勝を重ねてきたキューバ代表チームは、「アマチュア最強軍団」と呼ばれている。特にここ数年の世界大会では、2003年と2005年のW杯や2004年のアテネ五輪に優勝など、向かうところ敵なしといった文脈で語られ続けている。

が、しかしここには二つの誤謬がある。一つはキューバチームを「アマチュア軍団」と呼んでいいかという点。もう一つは、最近のキューバの戦力は全盛期ほどではなく、もっぱらダウンしている点だ。そして、これら二つの誤謬を明らかにするとともに、キューバがその戦力低下にも関わらず、世界大会の覇者であり続けてきた秘密を解き明かしていきたいというのが、本稿の主眼である。

看板に偽りあり「アマ最強軍団」


キューバ代表の野球選手を「アマチュア」と呼ぶには語弊がある。ご承知の通り、現在のキューバはカストロ議長の革命政権下にあり、社会主義(共産主義)体制をとっている。スポーツに関しては旧共産圏のスポーツ大国(旧ソ連や旧東独など)と同様のシステムが採用されており、代表選手は広義の「国家公務員」と呼べる存在だ。

選手の給料は伝えられるところによれば、月2000円だ。物価システムが独自の体制なので、この値段をもって自由主義圏と単純比較することはできないが、キューバで一般的なサラリーマンの初任給は月1000円程度と聞く。要するに、キューバ国内においては、一般の人よりやや優遇されたサラリーで働いている「プロ」選手という存在だと考えていいだろう。

キューバ国内リーグの実情


人口1100万人強のキューバ国内では、トップリーグに16チームが存在し、シーズン90試合を戦う。シーズンは乾期である10月か11月にスタートする。その年開催される国際大会に照準をあわせるため、毎年のスケジュールは流動的だ。

シーズン90試合を終えると、ベスト8によるポストシーズン(準々決勝~決勝)が行われる。プレーオフはそれぞれ5試合・7試合、続くキューバシリーズは7試合で、メジャー方式と同様だ。そしてキューバシリーズ終了後、今度はスーパーリーグなるものが招聘される。

トップリーグから選ばれた100人が4チームに分けられるスーパーリーグは、明らかにキューバ国家代表を選出するためのリーグという位置づけだ。その年の国際大会に向けて、常に旬のプレーヤーをピックアップし、トレーニングを積ませるという意味で、このリーグの持つ意義は大きい。

キューバ「国技」としての野球


キューバは野球のみならず、共産圏的な運営論を用いたスポーツ大国であるが、その中でも野球は特に「国技」として重要な地位にあり、また国民の間でも人気が高い。これはカストロ議長の野球選手経験と無縁ではないだろう。

カストロ議長は学生時代、投手としてメジャー選抜チームを相手に3安打無失点に抑えたという伝説がある。この逸話の真偽のほどは定かではないが、カストロ議長がかなりのレベルの選手であり、また優れたアスリートであったことは間違いない。メジャーリーガーを夢見ていたとの話もあるが、後にカストロ氏は革命に身を投じ、その夢は断たれた。その後のキューバ革命政権は、アメリカと断交状態にある。

選手の亡命による戦力低下が続くキューバ→
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