『時価総額』のトリック
ライブドアは楽天に比較して、公明正大であるという印象を持たれているフシもあるが、実のところそうでもない。球界参入表明から現在に至るまで、堀江社長の発言は一貫しているわけではないし、また参入に有利なように、自社を大きく見せようとするトリックを多用している。その一つが、ライブドアが7月に提出した「新球団構想計画骨子」の中の記述だ。ライブドアは既存球団と株式の時価総額を比較し、企業規模として球団運営にふさわしいことを主張した(次表、非上場企業である巨人・中日・ロッテを除く)。
※2004/07/06時点での株式時価総額比較
順位 | 球団(親会社) | 株式時価総額 | 1 | オリックス | 9879億 | 2 | 近鉄 | 6847億 | 3 | 西武(鉄道) | 5702億 | 4 | ライブドア | 4856億 | 5 | 広島(マツダ) | 4523億 | 6 | 横浜(TBS) | 3335億 | 7 | 日本ハム | 2968億 | 8 | ヤクルト | 2721億 | 9 | ダイエー | 1436億 | 10 | 阪神 | 1199億 |
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この表を見る限り、ライブドアは10球団中4位であり、他との比較で遜色ないように見える。しかしこれは第二次ITバブルとも言うべき、IT・新興株の時価評価の高さによるもので、一般的な評価指標である、売上高・経常利益で表を作成すると以下になってしまうのである。
※直近決算期による売上高・経常利益比較
順位 | 球団(親会社) | 売上高 | 経常利益 | 決算期 | 1 | 広島(マツダ) | 29161億 | 580億 | 2004/03 | 2 | ダイエー | 19936億 | 315億 | 2004/02 | 3 | 近鉄 | 12978億 | 335億 | 2004/03 | 4 | 日本ハム | 9260億 | 196億 | 2004/03 | 5 | オリックス | 7208億 | 1022億 | 2004/03 | 6 | 西武(鉄道) | 4147億 | 765億 | 2004/03 | 7 | 阪神 | 3074億 | 167億 | 2004/03 | 8 | 横浜(TBS) | 2950億 | 239億 | 2004/03 | 9 | ヤクルト | 2388億 | 231億 | 2004/03 | 10 | ライブドア | 108億 | 13億 | 2003/09 |
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ライブドアを他の既存球団と比較してみると、明らかに貧弱である。ライブドアだけが9月決算期であるが、2004年9月期の予想値でも売上高250億・経常利益50億であり、大差はない。もちろんこれが直ちに球団経営ができないということを示すデータではないが、ライブドアが「時価総額比較」というトリックを持ち出す姿勢の方が問題なのだ。
『現金500億』のカラクリ
堀江社長が公言していた「ライブドアには現金が500億円ある」との話だが、これもその多くが本業で稼いだ金とは言い難い。ライブドアは昨季までは有利子負債、つまり借金がかさんでいたため、M&Aによって払わなければならなかった企業買収資金を市場から調達して凌いだのである。ライブドアは2004年4月の公募増資によって、358億円を一般投資家から調達した。『現金500億』の殆どはその金だ。500億円の中には返済すべき借入金も含まれており、全てが使える金だったわけではない。またその金の性質は投資家=株主から調達したものであり、それをしばらくの赤字経営が見込まれる球団経営に投じることは、度々「株主重視」を口にする堀江社長の態度とは論理的に矛盾するものだ。
また、この358億円を調達するためにも、トリッキーにみえる市場工作(株式100分割など)を実施したり、公募前の株価操縦が疑われており、さらには公募価格6379円(その後再び株式10分割を実施したため、現行指標では637.9円)を現在の株価は大きく下回っている(2004/11/2終値:393円)。このように多くの株主を裏切っている実績があるにも関わらず、球団経営において「選手にストックオプション」発言などを繰り返すあたりの臆面のなさもいただけない。
実のないポータルサイト
「ライブドアってどういう会社?」という問いに対して、現状では「なんかポータルサイトを運営している会社」としか言うことができないだろう。楽天が「インターネット商店街」という明確な基幹ビジネスがあるのに対して、ライブドアのそれは良くも悪くも曖昧だからだ。そしてライブドアも、どの大手IT企業でも押し進めている総合ポータルサイト化を展開しているが、その実態は「yahooの物真似、二番煎じ」と言われるもので、何かに特化した部分があまり見うけられない。ライブドアの中で最もトラフィックを稼いでいるのが前述のブログ(ウェブ日記)サービスであり、しかしながら現状で収益モデルに乗っているとは言い難い。ライブドアの収益の多くを占めるのが、証券やファイナンスの金融系であり、実勢から考えれば総合ポータルのビジネスとしては不採算な部分が多すぎるのだ(集客の全てを金融にシフトさせるならば話は別だが)。
そして、ライブドアが今後どこへ向かっていくかもわからない。繰り返すM&Aにより、関連サービスは増えているが、それが相乗効果をもたらしているとも言い難く、またサッカーや競馬などのスポーツビジネス参入を表明しているが、その実績も公算も不明である。市場調達資金も次第に底をつきかけており、頼みの株価も4月の公募価格を回復せず、7月の株式10分割以降は長期下落トレンドである。時価総額も1月には9000億円台まで到達したが、今後その水準を回復することはまずないと言えるだろう。株価政策による資金調達という方法論を採る限り、このままでは数年以内に経営危機が訪れる可能性は高いだろう。
【PART3 ライブドアの功罪】→