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天皇杯で大番狂わせが生まれるワケ

Jリーグは年末はオフシーズンだが、その時期には見逃せない天皇杯がある。リーグ戦とは違ったドラマが見られるトーナメント戦は面白い。

執筆者:杉浦 義宏

一年の計は、天皇杯決勝にあり

今はなき横浜フリューゲルスも天皇杯で有終の美を飾った
毎年元日にはさまざまなスポーツが行われるが、中でも注目が集まるのが、天皇杯全日本サッカー選手権大会だろう。NHKで生放送される決勝戦は、毎年どんなカードでも5万人を越す観衆で国立競技場の観客席が埋め尽くされる。Jリーグが始まって13年になる今、日本代表や、浦和、新潟などの人気チームの試合で満席になることは珍しくないが、Jリーグ開幕以前にサッカーの試合で満席になるのは、天皇杯か高校選手権かと言われるくらいで、日本サッカーの一大イベントとして定着している。

リーグ戦終了後に行われるのでたかがカップ戦と思われるかもしれないが、日本最大のオープントーナメントであり、アマチュアチームでも勝ちあがればJリーグクラブと対戦することも可能で、数々のジャイアントキリングが期待できる点でも興味深い。

高校生がJ1王者を追い詰めた過去

近年の番狂わせで思い出されるのが、2003年度、高校サッカー界の名門・市立船橋高校がその年のJリーグ1st、2ndの両ステージを制覇した横浜FMを追い詰めた試合があった。市立船橋はそれまでに、JFL昇格を決めたばかりのザスパ草津(現J2)と阪南大学をそれぞれ倒して勝ち上がってきた。試合は主力を数人欠きながらも横浜FMがJリーグ王者の貫禄を見せつけ2点を先制するが、後半に市立船橋が怒涛の追い上げをみせて2対2の引き分けに持ち込む。延長戦までもつれたものの決着がつかず、最後はPK戦になり横浜FMが制し市立船橋のアップセットはならなかった。

天皇杯で大番狂わせが生まれるワケ

天皇杯は一発勝負のトーナメント戦ということもあって、予想外の結果が起こることが多い。この背景にはクラブチームの選手起用にポイントが隠されている。大会がJリーグ終了後ということもあって、通常ならば選手はオフシーズンに入る。J1リーグは2006年の場合は12月2日で終わるが、天皇杯で勝ち残ってしまうと最長元日までシーズンが続いてしまうのだ。

たかが1ヶ月かもしれないが、翌シーズンのキャンプインが2月ということを考えると、体力づくりなどを考慮するとオフシーズンは1月初旬までしかない計算になる。1年間戦い続けてきた選手にとって休む間もなく、次のシーズンを迎えることになってしまうのだ。そのため、モチベーションを上げ難いという選手の本音が隠されている。

また、選手にとってこの時期は契約更改がある。主力であればあまり問題はないが、控え選手やサテライトなどふだん試合に出場できない選手にとってこの大会が最大のアピールポイントになる。それは監督にとっても同じで、次のシーズンに向けて選手を確保または放出の最終検討も行う絶好の機会でもある。

そういったことからもリーグ戦とは違うメンバーで臨むクラブも多く、その結果思わぬ敗戦を喫することもしばしば見られる。先の市立船橋と対戦した横浜FMもその例で、半分近くのメンバーが変わっていた。ネガティブな要素も作用しているが、ポジティブな要素もある。もちろん、J2やJFLなど下部のリーグに所属するチームや大学生や高校生たちにとって、J1チームとの対戦に燃えないはずがない。彼らのモチベーションなしでは、ジャイアントキリングなど起こりえないことを忘れてはいけない。
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