ついに若手抜擢に踏み切ったジーコ監督。
沈滞しがちだった代表が活性化されるのか?
今野泰幸(FC東京)、村井慎二(磐田)、田中達也(浦和)…。2002年秋のジーコジャパン発足以来、「欧州組とJリーグで経験を積んだトップ選手」にこだわる傾向を見せてきた指揮官が、ようやく若い世代に門戸を開いた。2006年ドイツワールドカップ以降の日本サッカーを担う選手たちが来週31日から始まる東アジア選手権(韓国)でようやく日本代表入りを果たした。2004年以降、ジーコジャパンはメンバーが固定されすぎて、チーム内には沈滞したムードも漂っていた。若い世代の台頭と抜擢は日本サッカー界にとって急務のテーマでもあった。東アジア選手権で今野らがマンネリ化しつつあったチームを活性化させてくれるよう期待したい。19日午後、都内の日本サッカーミュージアムに姿を現したジーコ監督は「今回はFIFAデーではないし、欧州組は移籍や来季の準備で忙しい時期。今回は彼らを召集せず、新たなグループを加えることにした」と宣言。初代表の今野、村井、田中達の名前を真っ先に挙げた。
アテネ五輪世代では、2003年コンフェデレーションズカップなどで大久保嘉人(マジョルカ)、松井大輔(ルマン)、石川直宏(FC東京)、茂庭輝幸(FC東京)らがA代表に抜擢されたが、いずれもチャンスを生かせずじまい。ドイツワールドカップ予選ではメンバーに残れなかった。結果として2004年から2005年にかけての日本代表主力は2002年日韓共催ワールドカップの中心選手とほとんど同じ。辛うじて80年生まれの玉田圭司(柏)と大黒将志(G大阪)が入っただけで、81年生まれ以降の若い世代が1人もいないという、いびつな状態になってしまった。
同じアジアでは、韓国のボンフレール監督が19歳のFW朴主永(FCソウル)や金珍圭(磐田)を抜擢するなど若返りを図っている。世界を見ても、先のコンフェデレーションズカップを戦ったドイツ代表は83~84年生まれの選手が主体だった。ブラジルのカカ(ACミラン)もアドリアーノ(インテル)も23歳という若さだ。そういう現状があるだけに、日本も若い世代の台頭が待ち望まれていた。「このままだと、年代別世界大会を総なめにし、2002年ワールドカップを戦った中田英寿(フィオレンティーナ)から小野伸二(フェイエノールト)らの世代とその下の世代に大きなギャップが生まれてしまう。何とかして彼らの国際経験を若手に伝える必要がある」と日本サッカー協会幹部からも危機感が聞こえてきていた。
そこでジーコ監督はついに決断した。初代表はたったの3人だったが、それでもこれまで一度もチャンスを与えなかった選手を呼んで間近で見ようとしたのは大きな進歩である。「私は他にも力のある選手が沢山いると思っている。若い世代を召集する際はタイミングが重要だ。今回はいい時期だった」と指揮官は心境の変化をこう説明した。
残念ながら、現時点でのスタメンは「川口(能活=磐田)、加地(亮=FC東京)、田中(誠=磐田)、宮本(恒靖=G大阪)、中澤(佑二=横浜)、三都主(アレサンドロ=浦和)、福西(崇史=磐田)、遠藤(保仁=G大阪)、小笠原(満男=鹿島)、玉田、大黒」とジーコ監督は言い切った。しかし玉田も大黒も最初はサブだった。練習試合などで際立ったパフォーマンスを見せ続け、公式戦の重要な場面でゴールを挙げることで、スタメンの座を勝ち取ったのだ。FWではない今野や村井に同じ例を引用することはできないが、とにかく勝負を左右するような大仕事をすれば、ジーコ監督も放っておくわけがない。これまで大久保や石川らがチャンスをモノにできなかった分、新たな若手にはつかみとってほしい。彼らの活躍ぶりに、日本サッカーの将来がかかっているといっても過言ではない。
今回のトピックスとしては、今野ら3人の召集に加え、久保竜彦(横浜)が約1年2ヶ月ぶりに代表に復帰したこと。このところのJリーグでわずかな時間ながらピッチに立てるようになったのを見て、ジーコ監督は一度近くで確認したいと思ったのだろう。何しろ久保のストライカーとしてのスケールの大きさは他の誰も及ばない。昨年4月のチェコ戦(プラハ)で見せた強烈ゴールには、日ごろバロシュ(リバプール)やコレル(ドルトムント)を間近に見ている地元記者も驚いていた。にもかかわらず持病の腰痛が長引き、今年は一度も代表に呼ばれていなかった。ワールドカップ本大会まであと1年。彼の状態がよくなれば「決定力不足」といわれる日本FW陣に光明が差す。今回はどの程度できるか分からないが、期待したいものだ。
もう1つのトピックスとしては、ジーコジャパンの柱の1人ともいわれた鈴木隆行(鹿島)がメンバーから漏れたこと。「最近の隆行を見ていると元気がない。彼らしい身体的強さ、幅広い動きが見られない。早く割り切りをつけてチームに戻ってきてほしい」と指揮官はエールを送った。とはいえ、今回召集された久保や田中が爆発的な活躍を見せれば、鈴木といえどもやすやすと代表に復帰できなくなる可能性もある。そのくらい激しい競争が繰り広げられてこそ、日本代表は強くなる。
2006年ドイツ大会へのサバイバルはここからが本番。指揮官の中にヒエラルキーはあっても、この1年間の選手個々の活躍次第ではどう転ぶか分からない。それだけに今回の東アジア選手権ではビッグサプライズを期待したいものだ。
(取材・文/元川悦子)