開始早々からチェコが一方的攻めまくると見られたこの試合。始まってみると、主導権を握ったのは、むしろ日本の方だった。田中が軸となってコラー、バロシュらFW陣を止め、ボールを奪ったら小野や稲本がボールを散らす。さらには西と三都主の両サイドが攻め上がり、久保と玉田につなぐ。そんな速いサッカーがうまく機能。15分には玉田がスピードあるドリブル突破でボルフをかわし、18分には久保が強引にシュートを放つなど、最近の日本代表には見られなかった「積極性」と「ゴールへの高い意識」が目に付いた。
本来ならコラーに当てて落としたボールをネドベドやバロシュが拾ってゴールする形の多いチェコだが、この日はショートパスで中盤を組み立てようと試みる。が、コラーがポスト役をこなしても周囲とうまく噛み合わず、攻撃が組み立てられない。ネドベドとロシツキーのポジション交換も稲本、小野らの粘り強い守備に封じられた。大事な場面で立て続けにオフサイドを取られたことも、攻撃のリズムを大いに狂わせた。迎えた33分、日本は待望の1点をゲットする。藤田→玉田→稲本と中盤でパスがつながり、稲本から前線の久保へ鋭いボールが出た。久保は相手DFを振り切って左足を思い切り振りぬいた。まるでプレミアリーグでも見ているかのような豪快なゴールで、日本は1点をリードし、前半を終えた。
後半に入ると同時に、チェコはいきなり7人を交代。それから10分も経たないうちにロシツキーも下げた。ブリュックナー監督は本来の4-4-1-1に近い布陣に変更し、若い選手をテストするとともに同点ゴールを狙うというテーマに素早く切り替えた。しかし日本は最後までモチベーションが落ちなかった。「戦術うんぬんは関係ない。とにかくボールを追い掛け回して獲ろうぜ」と新キャプテンの藤田がチーム全体にハッパをかけた通り、全員が懸命に走り回ってチェコの攻めを体を張って止めた。後半30分すぎからチェコは怒涛の攻撃を見せたが、GK楢崎がスーパーセーブを連発。坪井に「後ろに神がいる」とい言わしめたパフォーマンスで、彼は日本を救ってみせた。
結局、後半43分40秒のところで、試合は終了。チェコの選手たちが淡々とピッチを引き上げる傍らで、歴史的な勝利を収めた日本選手はバンザイ。小野と楢崎がハイタッチして喜びを分かち合った。どちらがホームなのか分からないような光景だった。日本代表は「選手個々のクオリティの高さ」を実証した。代表入りしたばかりの田中、茶野が頭脳的な守備で相手を封じ、西、玉田らはミスを恐れずに攻め続けた。そして久保はアジアレベルをはるかに超えたシュートを叩き込んだ。今の日本サッカー界は、いつどんな選手が出てきても、遜色ないパフォーマンスを見られるようになったのだ。それがチェコ戦でハッキリした。
3-5-2システムもうまく機能した。Jリーグの多くのチームが採っている戦術だけあって、選手たちはスムーズに適応。チャレンジ&カバーをキッチリこなした。ジーコ監督がこだわり続けた4-4-2よりもはるかに安定感のある戦い方ができたのだ。指揮官はなぜ、今までこの布陣を採らなかったのか本当に不思議である。そして中田英寿(ボロ-ニャ)を欠いたチームが、小野と藤田らの努力もあって一体化したことも評価すべきだ。「監督うんぬんじゃない。自分たちでやらないと」という思いが全員からみなぎっていた。藤田も「国内・国外関係なくみんなでやろうという雰囲気が出てきた」とポジティブに話した。
ジーコ監督が東欧遠征を通じて進めたかった欧州組中心のチーム作りは、残念ながらできなかった。指揮官のチームマネージメントがよかったともいえない。が、この日は選手たちが自分で勝利を追求したからこそ、チェコを倒すことができた。欧州組に頼らない構造が出来つつあることを、ジーコ監督はしっかりと直視すべきである。
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