「自動記述法」から始まったシュールレアリスム運動
シュールレアリスムの起源とも言える「自動記述法」や、理解に役立つ「デペイズマン」の概念などについての解説がされている入門書 |
シュールレアリスムの起源は、1920年、ブルトンとフィリップ・スーホー(1897-1990、仏)により発表された『磁場』という詩集で試みられた、「オートマティスム(自動記述法)」だと言われています。これは精神分析学者のジークムント・フロイト(1856-1939年、オーストリア)が提唱した精神分析における自由連想法に着想を得ており、芸術家が自らを半眠など受動的な状態に置き、湧き上がってくる言葉やイメージをできるだけ素早く手を加えずに書きとっていくという手法です。
自動記述による文章は主語が抜けたり、入れ替わったり、なんの脈絡もない単語が並べられたり、文章として成立していなかったりと文字通り文法を逸脱しています。その結果意外な単語や文節どうしの組み合わせが発生し、それらが文章として続いていくことでさらなる効果が得られるのです。先で挙げたロートレアモンによる詩は作為的に創作されたものかも知れませんが、自動記述により、似たような結果やさらに意外性に満ちた結果が得られたのです。
このような文学的な概念と試みからシュールレアリスムは始まり、1924年にはブルトンにより『シュールレアリスム宣言』が発表され、これが定義されました。
「自動記述」的な絵画表現
ミロの作品が表紙となっている、シュルレアリスム絵画についての書 |
例えば、アンドレ・マッソン(1896-1987、仏)やジョアン・ミロ(1893-1983、スペイン)。彼らの作品には、抽象的ではありますが不完全な具象ともとれる複雑な形態が連なり、なにやら作家の心の奥底から湧き出てくるものを次々と描き出したかのような印象を受けます。彼らが実際にどのような意識で制作を行っていたかは定かではありませんが、「自動デッサン」的な手法によりそのような画面が得られていると考えることは間違いではないでしょう。
長崎県美術館が所蔵するミロ作品へのリンク>>こちらから
ところが、このような自動記述的な絵画は詩の分野ほど優れた成果を残すことはできませんでした。なぜならば、文章の前後関係や文節のように明瞭な区切りを持たない絵画において対立するイメージを表現するのは困難であり、また出来上がった作品はたとえ時間とともにイメージを変化させながら描いたものでも、ひとまとまりのものとして見られてしまいがちだからです。
その一方で発展したのが、先に述べたマグリットやエルンストによる絵画表現でした。彼らの表現は自動デッサンと比較すると明らかに作為的なものではありますが、これにより得られる効果は正に自動記述により得られる世界と同様のものだったのです。
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