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マグリットのシュールな世界(2ページ目)

「巨匠で見るアート」シリーズ。第1回はベルギー生まれの作家、ルネ・マグリットとシュールレアリスム運動をご紹介します。

執筆者:橋本 誠

「デペイズマン」を用いた作品

マグリットが意図して制作を行っていた、通常の絵画のような理にかなった対象の選択や構図の決定を裏切ってゆく手法のことを、シュールレアリスムの中心人物アンドレ・ブルトン(1896-1966年、仏)は「デペイズマン(depaysement)」と呼んでいました。デペイゼ(depayser)にはフランス語で“異国へ追いやる”といったような意味があり、イメージが本来置かれるべき状態と異なる形で使用されている状態が「デペイズマン」だと言えるでしょう。

ブルトンが「デペイズマン」だとして高く評価した作品には、マグリットの他にもマックス・エルンスト(1891-1976、独)の絵画やロートレアモン(1846-1870年、仏)の詩があります。

エルンストは、本の挿絵や写真のイメージを切り抜き、コラージュすることでひとつの画面をつくりあげました。また、凹凸のあるものの上に紙を置き、上から鉛筆などでこすることにより図像を得る「フロッタージュ」を用いたことでも知られています。最終的な目標があってそれに向かって素材を探すということではなく、素材の山を眺めるうちに、それらが自らの幻覚の中で自動的に組み合わさりイメージとして生成され、それを実際に画面へと落とし込んだものが彼の作品だと言えます。

詩で描かれるシュールレアリスムの世界

ロートレアモン(※)は画家ではなく詩人であり、しかもシュールレアリスム運動が興隆する以前に活動していた作家ですが、彼が残した数々の詩は、ブルトンらにより「デペイズマン」の美学を非常にうまく表現していると評されています。例えば、1868年に発表された『マルドロールの詩』には、次のような詩が収められています。

「ミシンと洋傘との手術台のうえの、不意の出逢いのように美しい!」

この詩は後に、シュールレアリストとしても活動をする写真家のマン・レイ(1890-1976年、米)が作品のモチーフとして引用するなど非常に有名になった文章です。通常では考えられない単語(対象)の組み合わせの効果により、私たちの頭の中に広がる言葉では表現できない世界──。マグリットの絵画から受ける印象と共通したものを感じることができます。作品の形態こそ違えども、「デペイズマン」という同様の考え方に基づいて理解することが出来ます。

※ 本名:イジドール・リュシアン・デュカス

次のページでは、シュールレアリスム運動の起源について解説します!
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