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マグリットのシュールな世界

「巨匠で見るアート」シリーズ。第1回はベルギー生まれの作家、ルネ・マグリットとシュールレアリスム運動をご紹介します。

執筆者:橋本 誠

シュールな世界を描くルネ・マグリット

『ルネ・マグリット1898-1967 コンパクトミディ・シリーズ』
マグリットの作品では、青空や山高帽の紳士などが現実にはありえない風景の中に描かれる
夜空に浮かび上がる、鳥の輪郭をした青空。身体に風景が溶け込んだかのように描かれた、山高帽をかぶった紳士。「風景」と名づけられた、中身のない額縁の絵──。

ベルギー生まれのルネ・マグリット(1898-1967年)が描く世界は、私たちがよく知っている具体的な事物の描写により構成されているのにも関わらず、その思いもかけない組み合わせや騙し絵的な手法により、独特の不思議な印象を与えます。

私たちは、日常的にも「シュールな世界」といった表現をよく使いますが、マグリットの絵は正にその類の作品と言えるでしょう。ゆえに、彼の作品は専門的な知識がなくても十分に楽しむことができますが、1920~30年代にヨーロッパで盛んであった「シュールレアリスム(※)」の運動について理解しておくと、より楽しむことができます。

※ 専門的には「シュルレアリスム」とも表記されます

「巨匠で見るアート」シリーズ、第1回はマグリットを中心に、何人かの作家の活動を交えながら、シュールレアリスム運動を取り上げたいと思います。

モチーフの組み合わせで描かれる不思議な世界

冒頭で述べたように、マグリットの作品の特徴は、それぞれは現実に存在するものを、現実にはありえない組み合わせで描いていたり、絵画ならではの視覚的トリックを用いて描いてる点です。

例えば、《大家族》(1953年)という有名な作品では、海の上に広がる荒々しい空模様の中に、羽ばたく鳥の姿をかたどった青い空が描き込まれています。異なるタッチで描かれた空の表情と、鳥の不自然なスケール感が不思議な印象を与えます──。

宇都宮美術館が所蔵する《大家族》へのリンク>>こちらから

マグリットは描く事物そのものの表現を追及していたわけではなく、描いた事物の組み合わせや絵画全体を通して発生する不思議な「印象」つまり、抽象的な「シュールな世界」を描いていたと言えるでしょう。その証拠に、作品における彼の絵筆のタッチそのものはひどく凡庸であり、表現自体の独創性を可能な限り排除しているかのようにも見えます。

次のページでは、マグリットの表現の秘密に迫ります!
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