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第141回直木賞受賞!北村薫『鷺と雪』(2ページ目)

第141回直木賞受賞!北村薫『鷺と雪』とベッキーさんシリーズの魅力をご紹介します。

石井 千湖

執筆者:石井 千湖

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ベッキーさんシリーズの魅力とは?

鷺と雪
<DATA>タイトル:『鷺と雪』出版社:文藝春秋著者:北村薫価格:1,680円(税込)
ベッキーさんシリーズの魅力を、大まかにまとめてみたいと思います。

1.上流階級の視点で格差社会を描く
主人公の英子は、日本でも五指に入る財閥系列の商社社長のご令嬢。ご学友に宮様がいるような学校に通っています。例えば友だちを「あなた」ではなく「この方」と呼んだり、夏休みには軽井沢の別荘へでかけたり、資生堂パーラーで洋食を食べたり。

そんな豊かな生活を送っている英子が、『街の灯』の表題作で貧しい人々が住む家を見て〈我々のような人間とそうでない人達のいることは、とても不当なことに思える。でも、実際に、今のような家を見て《あそこに住め》といわれたら、震えてしまう。とても出来ない〉というシーンがあります。その言葉に対するベッキーさんの返事が、優しいけれどはっとさせられるのです。また、この事件に関わった桐原道子(英子の友人のなかで最も身分が高い)の毅然としたキャラクターも魅力的。だから、上流階級を語り手に格差社会を描いていても厭味がないんですね。

2.作中に出てくる本が読みたくなる
例えば、『街の灯』ではベッキーさんの由来になっている『虚栄の市』の主人公が自分を蔑んだ塾長に辞書を投げるシーンが鮮やかに切り取られていますし、『玻璃の天』では『あしながおじさん』の意外な読み方が紹介されています。

『鷺と雪』では、なんといっても山村暮鳥の『聖三稜玻璃』。ロマンティックな登場の仕方をします。引用されている部分も興味深く、私は思わず古書店を探して、ほるぷ出版の復刻版を買ってしまいました。

3.歴史の大きな流れに呑みこまれる個人の悲しさ
このシリーズは、史実に残る大事件が起こるまでの日々を描いています。背景となっているのは、国際化が進み、大不況で貧富の差が広がっている、今の社会とも共通点が多い時代。過去の話、と片付けられないリアリティがあるのです。歴史の大きな流れに、すべての人生が呑みこまれていくラストシーンは切なく、深い余韻を残します。

「ああ、面白かった」で終わるのではなく、他の本や歴史へも興味が広がる作品。未読の方はぜひ、読んでみてください。

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