罪のない子どもたちが次々と惨殺されているのに、捜査することすら許されない。スターリン体制下の旧ソ連を舞台に、主人公が姿の見えない連続殺人鬼を追っていく。トム・ロブ・スミスのデビュー作『チャイルド44』は、CWA賞受賞&リドリー・スコットによる映画化も決定。ミステリに限らず、面白い小説が好きなら読み逃せない話題作だ。

この社会に犯罪は存在しない?

チャイルド44 上巻 (1) (新潮文庫 ス 25-1)
<DATA>タイトル:『チャイルド44 上巻』出版社:新潮社著者:トム・ロブ・スミス価格:740円(税込)
1933年、国全体で飢餓が深刻化し、多くの人々が命を落としていたころ。ウクライナの村で、幼い兄弟が猫を狩るエピソードから物語は始まる。不器用な弟は初めて獲物を手に入れたことを喜ぶが、その直後、兄が食料として別の人間に狩られてしまう――。

それから20年後。モスクワの国家保安省に所属する捜査官、レオ・デミトフが登場する。本書の主人公だ。仕事は国内外にいる共産党の敵を摘発すること。

ひとりのスパイに逃げられるより、十人の無実の人間を苦しめるほうがどれほどかましなことだ。

というのが、彼らの職務の大原則である。アメリカ大使館の近くで開業している獣医を調べていたレオは、上官に命じられ、4歳の息子を亡くしたばかりの同僚の家を訪ねる。遺体が異様な様子だったので、一家は殺人事件として調べてほしいという。その訴えを取り下げるよう説得するために。

なぜなら、社会主義の理想を実現したこの国で殺人のような凶悪犯罪は起こるはずがないから。というわけで、公式の報告書では「事故」になる。体制に都合の悪い現実は無視して、書類で辻褄を合せるのだ。年金問題だって事故米問題だって根底にはそういう考え方があるわけだが、究極のところまで行くと人が殺されてもなかったことにされてしまうらしい。怖い。

なんとか遺族をあきらめさせた後、捜査に戻ったレオは副官の姦計にはまり、片田舎の民警へ追放される。そこで彼を待ち受けていたのは……。