妻にとことん惚れぬいた人城山三郎『そうか、もう君はいないのか』
<DATA>タイトル:『そうか、もう君はいないのか』出版社:新潮社著者:城山三郎価格:1,260円(税込) |
昭和26年の早春。一橋大学の学生だった城山さんは、実家のある名古屋の図書館の前で容子さんと出会いました。規定の休館日でもないのに図書館が閉まっていたおかげで、2人は話をしながら一緒に街を歩き、惹かれあうものを感じます。馴れ初めからして実にロマンティックです。容子さんの父に交際を禁じられいったんは離れ離れになりますが、城山さんが大学卒業後実家に戻ってきたことで再会し、結婚。それから46年後、容子さんが亡くなるまでの日々が綴られています。
新婚旅行のとき、野性の猿と並んで同じ角度に顔を向ける容子さん。夫の小説のためにナポレオンについての講義を聞き、眠気と戦いながらノートをとる容子さん。夫が講演で緊張していると、客席で「シェー」のポーズをしてみせる容子さん。その明るさは、死病を患っても変わりません。体の不調が続き、精密検査を受けた容子さん。城山さんが緊張しながら結果の報告を待っていると、なんと鼻唄が聞こえてきます。
私なども知っているポピュラーなメロディに自分の歌詞を乗せて、容子は唄っていた。「ガン、ガン、ガンちゃん ガンたらららら……」 癌が呆れるような明るい唄声であった。
おかげで城山さんはつらい質問をせずにすんだのだそう。明るく唄う容子さんを「大丈夫だ、大丈夫。おれがついてる」と抱きしめる城山さんも素晴らしい。
こんな夫婦になりたい! 妻へのイチオシ本は次ページに。