上巻と下巻で夫婦関係の見方が変わる業田良家『自虐の詩』
<DATA>タイトル:『自虐の詩』上巻出版社:竹書房著者:業田良家価格:591円(税込) |
一組の夫婦の日常を描いた物語なのですが、夫のイサオは働かないし、何か気に食わないことがあるとすぐテーブルをひっくり返すし、家事はまったくしない。ダメ男の見本のような人です。妻の幸江は必死で働いて、そんなイサオの面倒を見ている。といっても貧しくて悲惨なだけの話じゃありません。
幸江はイサオがテーブルをひっくり返す回数を数えてみたり、酒を飲まないように色仕掛けでせまってみたり、茶目っ気のあるキャラクター。イサオも幸江がいなくなると涙目になるような可愛らしさを持っている。だから読んでいるうちに、2人に愛着がわいてくるんですね。
そして幸江の過去が明らかになる下巻が本書の真骨頂。イサオに出会うまでの孤独な人生が語られているのです。特に辛い少女時代を共有した親友と再会するラストシーンにはぐっときました。幸江が心のなかでつぶやく言葉に、夫婦関係はもちろん、人の一生で起こる出来事は幸せか不幸かという一つのモノサシでは量れないんだなと思わされます。
幸や不幸はもういいどちらにも等しく価値がある
平穏な家庭を捨てて、親友の妻と恋に落ちた男の遍歴――実在の人物が数多く登場する小説は次ページに。