6月 子ども時代の宝物がよみがえる
<DATA>タイトル:『銀の匙』出版社:岩波書店著者:中勘助価格:525円(税込) |
赤ん坊のころから虚弱体質で人みしり。伯母さんの背中にかじりつかないと、外に出られない。自分のような者が火事やけんかや酔っ払いや泥棒が絶えない神田の真ん中で生まれたのは河童が砂漠で孵(かえ)ったよりも不都合なことであったという。
引っ込み思案な分、観察力は鋭く、何気ない日常のディテールが細やかに綴られている。読んでいてうれしくなるのは、駄菓子やおもちゃ、お祭りなど、子どもの好きなものが出てくるところ。
じめじめした天気にいらだった気分を、子ども時代の宝物のように懐かしい輝きのある文章がやわらげてくれる。
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タイトル:『銀の匙』
出版社:岩波書店
著者:中勘助
価格:525円(税込)
中勘助と同じく漱石門下生で、「河童」という短編を書いた作家は? 答えは次のページに。