思わずツッコミたくなるだめさ加減
『ぼくのともだち』が気に入ったら、やはりダメ男が出てくるこちらもどうぞ。裕福な未亡人のツバメになり、どん底の貧乏生活から脱け出した主人公と旧友の妹の物語 |
たとえばアンリ・ビヤールの章。バトンはいきだおれ騒ぎを見物したときにたまたま隣に居合わせたビヤールと言葉を交わし、必死でともだちになろうとする。貧乏なのにビヤールにおごろうとしたり、社交辞令を真に受けて一度一緒に行ったカフェでずっと待っていたり。そこまでしたのに、ビヤールが恋人の話をすると、バトンはがっかりする。自分と同じように不幸せで居場所のない人、一緒にいても義理や恩など感じさせない貧しくて優しい人が、バトンの求める本当のともだちだから。しかもビヤールの恋人が若くて美しいと知り、嫉妬と羨望を募らせる。ところが、実際に恋人に会ったとき彼は大喜びするのだ。なぜかというとその恋人にはある事情があって――。
思わず目を疑うその理由。ぜっんぜん、優しくない。というか、むしろメチャクチャ嫌なやつだ。でもなぜか、憎めない。バトンはどうしようもなく、ずれている。読者には自明のことと思われるのに、なぜともだちができないのか自覚がない。自分の体のパーツを歯のねっとり感から足の爪の黒さまでいちいち確認し、通りすがりの他人の細かい癖に気がつく観察眼を持っているのに。
尻尾の禿(ち)びた犬がそばに寄ってきて、ぼくの指をくんくん嗅いだ。なんど追い払っても、指の匂いを嗅ぎに戻ってくる。ぼくは赤面した。ぼくの指は断じて臭くない。
という文章に吹き出す。でもきっと、自分にもバトンのようにヘンテコな部分があるのだろう。自分の匂いには、なかなか気がつかないものだから。
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タイトル:『ぼくのともだち』
出版社:白水社
著者:エマニュエル・ボーヴ
価格:1,785 円(税込)
次ページで紹介するのは、片想い男のぐるぐる思考に爆笑する一編です。