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『強運の持ち主』

『図書館の神様』,『幸福な食卓』など、同時代的な作品で高い支持を得る著者の最新作。元OLの占い師が出会った人々と気づきとは?

執筆者:梅村 千恵


『強運の持ち主』
瀬尾まいこの最新作。元OLの占い師・ルイーズ吉田、オーラは見えないけれど、霊視もできないけれど、けっこう人気。彼女のもとを訪れるのは・・・

『強運の持ち主』
・瀬尾まいこ(著)
・価格:1365円(税込)


■元・OLの占い師・ルイーズ吉田。特別な能力があるわけじゃないけれど・・・、瀬尾作品らしいユーモアにあふれた軽やかな作品。そして・・・

 『図書館の神様』『天国まではまだ遠く』『優しい音楽』など、けっして偉大ではないが、かえがえのない存在である人の、けっして特別ではないが、ありきたりでもない日常を、独特の切り口で切り取った作品で人気の高い著者の最新作。

 「私」は、元OLの占い師。ルイーズ吉田という名前で、ショッピングセンターの片隅で占いをしている。私生活では、「かつてない強運の持ち主」である通彦と同棲中。かつて、恋人に連れられてやってきた彼をあの手この手を駆使して、ゲットしたのだった。「当たる当たらないは問題じゃなく、相手が納得する答えを出さなければいけない――占いの師匠のモットーの意味が少しずつ分かり始めてきた「私」のもとには、今日もいろんな人が訪れる。
 父と母のどちらを選ぶか決めてほしいという小学生の抱える現実は?
「ある男性を振りむかせたい」女子高生の希望がかなわないのはなぜ?
 そうこうするうちに「終りが見える」という大学生まで現れた。彼は、「私」にも終りが見えるという。その言葉を通彦との別れを示していると思った「私」は・・・。

 占い師という、やっている知り合いがいそうでいない、珍しくないようでけっこう珍しい職業の主人公。
 彼女には、予知能力があるとか、人の背後にオーラが見えるとか、そういう特殊能力があるわけではない。四柱推命、姓名判断といった、きわめてオーソドックスな占い手法を一応取得はしているが、あとは、お客さんを観察して、そこから導きだされた自分の直感で占いをしている。いわば、人間観察のプロフェッショナルである。収録作品のうち、『ニベア』『ファミリーセンター』は、そんな主人公が、占いの顧客である少年や女子高校生の抱える「家庭の事情」を洞察し、その事情に人知れず(自分でも気づかないうちに)悩み、袋小路に入り込んでいる人たちに一筋の光を投げかけるという設定になっている。 
 また、家族という人間関係をモティーフにした作品という意味では、既存の瀬尾作品に通じる作品だ。そういう点で比較するなら、『幸福な食卓』『優しい音楽』の重くはないけれど切実な感動を求める瀬尾ファンにとっては、ちょっぴり物足りないかもしれない。
 だが、じっくりと、あるいは、繰り返して読むと、本作は、なかなかに、示唆に富んだ、深く玄妙な味のある作品なのだ。
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