妻を殺した少年が殺害された!殺したいと思った。だけど、殺していない。いったい誰が・・・第51回江戸川乱歩賞受賞作 『天使のナイフ』 ・薬丸 岳(著) ・価格:1680円(税込) この本を買いたい! |
■妻を惨殺した少年たちが次々と・・・少年犯罪をモティーフにした、老練・巧緻なミステリー
第51回江戸川乱歩賞受賞作。同賞は、東野圭吾、桐野夏生、真保裕一ら、数多くのベストセラー作家を輩出した名門である。今回、エンタメ系作家にとって、「王道」の入り口に立った著者は、1969年生まれ。若年化の進む純文学系に比べて、平均年齢かなり高めのエンタメ系においては、少壮ともいえる世代である。だが、作品のほうは、なかなかどうして、老練にして巧緻だ。
さて、物語は・・・
フランチャイズのカフェのオーナーである桧山は、男手ひとつで幼い娘を育てている。3年前、娘を出産したまもない妻・祥子が、自宅を襲った強盗によって、殺害されたのだ。
警察の捜査で、犯人たちは、遊ぶ金ほしさに犯行に及んだ中学生の少年3人であることがわかる。改正前の少年法の規定により、十四歳未満である彼らは、「逮捕」ではなく、「補導」され、名前の公表も一切されず、更正施設に送られたのだった。犯罪者というレッテルを貼られることをまぬがれ、遠からず、彼らは社会復帰するーー被害者の家族として、罪に相当する罰を望んでいた桧山は、やりばのない怒りに駆られる。そして、少年法改正論議を取り上げたテレビ番組で、こう表明し、世間の反感を買ったのだった。
「国家が罰を与えないなら、自分がこの手で殺してやりたい」――
それから三年。遺された愛娘を懸命に育てることで、やりきれない思いを封じ込めてきた桧山。そんな彼のもとに、驚愕すべき報が届く。妻を殺した少年の一人が、殺害されたというのだ。それも、桧山の生活圏内で・・・。殺してやりたい、だが、殺していない。いったい、誰が? この殺害に妻の事件は関係しているのか? 桧山は、独自で、少年たちの「その後」を調べようとする。だが、彼の行動と呼応するかのように、残りの少年たちの身にも奇禍が・・・。あのとき、名前すら知りえなかった少年たちそれぞれの顔が見えてきたとき、桧山が知ったあまりにも意外な真実とは?
読み始めた当初は、被害者に怨恨を抱いている主人公にかかった嫌疑をいかに晴らしていくかという比較的単純な筋立てだと思ったのだが、読み進むにつれて、物語は複雑性を増す。怨恨のもととなった事件の真相にまで、謎は及び、意外な結末へと導かれていくのだ。伏線の張られ方などもとても丁寧で、ミステリ好きが十二分に合格点を与えられる作品ではないかと思う。
何より、すべてのディテールが、最終的に、ひとつの大きなテーマに収斂されていくため、読後にすっきりとした充実感を味わえるのが、この作品の最大の魅力だろう。
そのテーマとは?