書籍・雑誌/話題の本関連情報

この新人がすごい!? 『サウスポー・キラー』(2ページ目)

『四日間の奇跡』ですっかりお馴染み「このミス!大賞」第4回大賞受賞作。クールでタフ、いい男が活躍するハードボイルド野球ミステリー。

執筆者:梅村 千恵

■直球勝負のハードボイルド。来る球はわかっているけど、気持ちよく三振に討ち取られる。「巧い!」作品

 本作は、選者である大森望氏がいうように、「ほとんど時代錯誤のハードボイルド」なのである。

 ハードボイルドが「時代錯誤」になってしまったひとつの理由は、ヒーロー像があまりにもステレオタイプで、しかも現実離れしていたからだと思う。
 だが、本作を読んで、私は、こういうステレオタイプで現実離れしたヒーローとの再会が、とても楽しかった。
 しかも、このヒーローは、かっこいいのだけど、マッチョな臭みはなく、適度の情けなかったりして、「いないよね、こんな野球選手」と思う反面「もしかしたら、いるのかも」とも思わせる。このあたりの匙加減が、とても巧い。
 主人公をサポートする60歳超の女性スポーツ記者や彼を追いつめていく敵役など、脇役たちの人物造詣も確かで、物語が浅薄に流れるのを抑えている。
 巧いといえば、主人公の一人称で語られる文体も、選者の香山ニ三郎氏が、「ちょいと老成しすぎ」というほど、新人離れしている。
 作品の舞台設定という点から言うと、昨今のプロ野球をめぐる騒動がこの作品にとって追い風となったことは確かだろうが、「プロ野球の暗部を批判する」といったようなプログラマティックな内容になっていないのもいい。

 基本は、直球・速球勝負だけど、実は、絶妙なバランスで組み立てられていて、来る球種はわかっているのに、きっちり、気持ちよく三振に討ち取られる――本作は、そんな作品なのである。

 ミステリー作品としての完成度に関しては、「真犯人の動機がありえない」という批評もあったらしい。だが、どちらかというと、ミステリーより野球(もちろん観戦派)との付き合いが長い私は、とても腑に落ちた。
 あまり書くとネタバレしてしまうが、ある種のエクスタシーを体験したことのある人間がはまり込んでいく狂気というのは、十二分に犯罪の動機となりえると思う。

 本好きでも、そうでなくても、野球好きでも、そうでなくても、気持よく読める作品。著者が、本当にいい意味で、「稼げる」作家になるだろうという期待をも感じさせる。「稼げる」エンタメ作家が固定化しつつある現状において、この新人賞がこの著者を選んだことは、とても意義あることだと思う。

この本を買いたい!


なんだかんだ言っても、やっぱり、このジャンルは熱い!エンタメの王道の情報チェックは、「ミステリーホラーの情報・作家ページ」から。

◆我こそは、と思う方、水原氏に続け!ミステリー系の新人賞にはこんなものが・・・

第4回「このミス!大賞」作品募集中!第一次選考に残れば、選者たちのアドバイスも受けられるなど、他に類をみないユニークな賞です。情報チェックは『このミス!大賞のページ』で完璧!

打海文三、柴田よしきなどを輩出した横溝正史賞。鈴木光司さんは、二度最終候補になっています。横溝正史ミステリー大賞『角川書店 横溝正史ミステリー大賞』のページで募集要項をチェック!

真保裕一、桐野夏生、東野圭吾・・・歴史、影響力などなど、日本文学を代表する新人賞だと言えるのが、江戸川乱歩賞。その分、ハードルは高そう・・・。まずは、主宰の『日本推理作家協会のページ』で情報、受賞作をチェック!
【編集部おすすめの購入サイト】
楽天市場で書籍を見るAmazon で小説を見る
  • 前のページへ
  • 1
  • 2
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます