■ノスタルジックなアイテムを散りばめながらも、湿り気はなし。カラッと陽性で、イキのいいストーリー
大人にとってのこの物語の楽しみの一つは、昔話で読んだことがあるような小道具たちが随所に登場すること。
魔法によって姿を変えられた犬やかかし(『オズの魔法使い』に出てきましたよね)、千里をゆく靴・・・。タイトルまではわからなくても、なんとなく、ああ、どこかで・・・というようなアイテムが物語を彩る。心の中に「永遠の子ども」が棲んでいる人にとっては、たまらないだろう。そうでなくとも、不思議なものの存在を信じていた(振り返ってみて、そういう気がするだけからもしれないが)幼い日の思い出が甦り、ちょっぴりノスタルジックな気分になれるだろう。
さらに、特筆すべきことは、この物語にとってノスタルジーは、あくまでもスパイスであることだ。全体的にじめつきがなく、カラっと陽性で、イキがいいのである。
そもそも「魔法によって老婆に姿を変えられた少女」という主人公ソフィー、設定からすると悲劇のヒロインのはずなのに、けっこう元気いっぱいなのである。とてつもなく無鉄砲で物怖じせず、かと思うと、外見以上に中身に十八歳の少女とは思えない分別臭いところがあったり・・・。
そのほか、正義の味方のはずである魔法使いハウルは、いいわけができないほどに女好きで、しかも面食いで、自分のモノになったらとたんに興味を失う気分屋(いるよね、こういう男の子)。その弟子マイケルは、口うるさくて心配性の世話女房タイプ(いるよね、こういう男の子も)。
「悲劇のヒロイン」「正義の味方」という紋切り型のカテゴリーに収まりきらない多面的で魅力的なキャラクター造詣は、さすが宮崎御大が原作に選んだだけのことはあると思わず頷かされてしまう。
■恋をすると、結構、こうなるよね。ソフィーの揺れる「女心」には、大人の女性も・・・
ノスタルジーのスパイスが効いている本作だが、私が個人的に、もっとも「懐かしい」と感じたのは、主人公ソフィーの心情だった。
ハウルに魅かれていく自分の気持になかなか気づかなかったり、気づいていても、一生懸命、否定をしてみたり・・・まあ、外見が老婆で、相手に釣り合わないのが自明だから、当然と言えば当然なのだけれど、こういうのって、そうじゃなくても、ありますよね、恋をすると・・・。
もしかすると、恋愛の一時期、多くの女性たちには、「老婆の呪い」がかかっているのかもしれない。私も、そういえば、かつて・・・などと思いながら、ソフィーの心情の妙味をたっぷり楽しませていただいた。いやあ、この味は、お子サマ方には、わかるまい。
子どもと一緒に楽しめて、しかも、大人だけにしかわからない隠し味も効いた、なかなかオイシイ一作。映画を観た方も、まだの方も、観る予定のない方も、ぜひともご一読を。
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