ノスタルジックなミステリーをお得意とする著者の新境地。リアルに、じわじわ、生理的に怖い・・・。一級のホラー小説。 |
『Q&A』
・恩田 陸 (著)
・価格:1785円(税込)
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■日常的な設定、質問形式だけでの物語進行・・・新しい試みへの意欲を感じる一作
『黄金の百合の骨』『禁じられた楽園』に続く、恩田陸の最新作。最近、刊行ペースが速いですよね、彼女。しかも、嬉しいことに、本作は、前2作とまったくテイストの違う作品。洋館、巨大庭園という、いかにも庁舎らしいゴシックな設定の前2作に対し、本作の舞台は、郊外の大型商業施設ときわめて日常的なのだから。ノスタルジックなミステリーを得意とする著者にしては、かなり珍しい。
何より、著者のチャレンジ・スピリットを感じるのは、本作の物語を語る「手口」だろう。タイトルからわかるように、この作品、質問と答えだけで物語が進行するのである。
「これからあなたに幾つかの質問をします」
物語は、属性の特定できない「聴き手」によるこんな問いかけから始まる。この聴き手が質問しようとしているのは、ある重大死傷事故の件だ。
■大型商業施設での大惨事。テロ?陰謀?原因は特定できず、噂ばかりが・・・
2002年2月11日、東京郊外の大鋸商業施設「M」は、買い物をする人々でにぎわっていた。ありふれた休日の、ありふれた風景。ところが、一瞬にして、その様相は、変貌する。火災ないし、異臭。何らかの変事に気づいた人々が、その場を逃れようと、入り口に殺到したのだ。人々は、押し合い、折り重なり、結果的に、死者69名、負傷者116名の大惨事に発展したのだ。当然、警察は原因解明に乗り出すが、不思議なことに、火災のあった様子はなく、有毒ガスの痕跡もない。事件なのか、事故なのか、それすら特定できないまま、さまざまな憶測だけが世間をにぎわせる。不穏当な集団によるテロ、国家も含めた機関が仕組んだ陰謀、人体実験・・・。
■事件の当事者、目撃者、傍観者などなど。それぞれの言葉が増幅させる[身近]で「正体不明」の恐怖
これらの事情を、読者は、まず、事件に何らかの形で関わった者たちの「答え」から知ることになる。事件の一報で駆けつけた新聞記者、現場に居合わせた主婦、老人、十代の少女、レスキュー隊員、事件後の補償問題に関わった弁護士、現場の近くにいながら、事件発生は全く知らなかったシナリオライター・・・
ある者は、妙な液体をぶちまけた若い男を目撃したと言い、ある者は、その場にそぐわない奇妙な老夫婦のことを今だに忘れらないと言う。
物語が進行するにつれ、すぐそばにある、正体不明の恐怖と、それの及ぼす余波が、目撃者たちや当事者たちの言葉で語らせることで増幅していく。その手際も見事が、これだけなら、そう特異な作品でもないだろう。この作品の特異さというのは・・・