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今が旬の新感覚ミステリー作家、最新作 『チルドレン』

『重力ピエロ』『アヒルと鴨のコインロッカー』など、新感覚のミステリーで人気の伊坂幸太郎の最新作。傍若無人で乱暴で、はた迷惑だけど、カッコイイ主人公が、起こしてします5つの奇跡を描く連作集。

執筆者:梅村 千恵


『チルドレン』
この本を買いたい!


■ヘンテコな主人公が起こす5つの奇跡の物語。ストーリーテーリングの技が冴える

『重力ピエロ』が直木賞にノミネート、『アヒルと鴨のコインロッカー』が吉川英治文学賞新人賞を受賞するなど、まさに、「今が旬」の著者。最新作は、ちょっとヘンな主人公が起こす(起こしてしまう)ちょっとした5つの奇跡を描いた連作集である。

1作目の『バンク』は、とんでないシーンから幕を開ける。その主人公・陣内と友人・鴨居は、銀行強盗の人質として、祭りで売っているチープなお面をかぶらされ、行員たちや他の数人の客とともに銀行内にとらわれているのである。語り手は、鴨居。「閉店時間がなんだっていうんだよ、時間より客のほうが大事だろ」と勝手な理屈で閉店間際の銀行に飛び込んだ大学の友人である陣内のせいで、強盗事件に遭遇してしまったのだ。鴨居にとって、頭の痛い存在は、犯人ではなく、友人・陣内だ。「峻険で偉そうで、おまけに破廉恥」な父親はじめ世の中に「立ち向かう」ことを基本方針にしている彼がおとなしくしているはずもない。犯人を挑発するは、鴨居に「二人で犯人を取り押さえよう」と言い出すは、歌を歌いだすは(彼は、ロッカーなのである)・・・。
突拍子もない行動を取る陣内にすっかりお手上げ状態の鴨居の前に、またもや突拍子もないことを言ってくる人間が登場する。同じく、人質としてとらわれていた盲目の青年・永瀬である。彼がトイレに行くのにつきそっていくことになった鴨居は、永瀬から、犯人の正体について、突拍子もない推理を聞く。その推理とは・・・

続く2作目『チルドレン』4作目『チルドレン3』では、「立ち向かう」ことを基本方針としている陣内は、家庭裁判所の少年事件担当の調査官になっている。語り手となるのは、陣内の後輩である調査官・武藤。「適当でいいんだよ、適当で。人の人生にそこまで責任もてるかよ」と嘯くかと思えば、「少年には『世界で一人の奴』として向き合わないといけないんだよ」と演説をぶつなど、一貫性のまったくない陣内だが、結局は、彼がその気もなくて起こした、ちょっとした行為が、少年たちに「奇跡」をもたらす。

3作目『レトリバー』、5作目『イン』では、再び、時間は、は、主人公たちの大学時代に戻る。語り手となるのは、銀行強盗事件で知り合った陣内・鴨居の友人・永瀬と彼の恋人・優子。『レトリバー』では、陣内がビデオ屋の店員に告白し、降られる。その現場にムリヤリ居合わせられ、その後、駅前の公園で時間をつぶすことにした優子と永瀬は、陣内から、「自分の哀しみのおかげで世界が止まっている!」と断言される。陣内いわく、公園にいる人々が、2時間以上、まったく変わっていず、同じ行動を取っているというのだ。あっけにとられる永瀬&優子だが、実は、陣内の言葉は、あながち嘘でもなかったのだ。『イン』
では、2作目、4作目で、陣内が、軽蔑していた自分の父親を「正体がばれないように、真正面から(???)殴って、ふっきった」と語っているそのシーンに永瀬たちが居あわすことになる。

5編それぞれに独立した「謎」があり、伏線があって回収があるという形式をとりながら、いくつかの「謎」を積み残し、それを違う作品でさりげなく解明するという凝った構成の本書。
ストーリーテーリングの技もあいかわらず冴えている。だが、このくらいの巧妙さは、この著者にとっては、「朝飯前」というところだろう。「作りこみました」というところを見せないのが、この著者の作品全般に通じる特徴でもある。

では、本書が独自に有する魅力とはどんなものだろうか。
そう問われると、やはり、陣内という強烈な個性を持つ主人公と彼がかもす空気感をあげないわけにはいくまい。
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