『GOTH リストカット事件』
乙一 角川書店 1500円
この本を買いたい!
■第三回本格ミステリ大賞受賞作。人間の暗黒面に興味を示す「GOTH」二人が犯罪を引き寄せる
本格ミステリに関わる現役の作家や評論家たちが投票によって受賞作を決定する業界でも類を見ないユニークな賞、本格ミステリ大賞。言うまでもないことであるが、最良の書き手は最良の読み手でもある。そんな彼らがきわめて公平な形で選んだ「本年度もっとも優れた本格ミステリ作品」の一つに選ばれたのが本作である(『オイディプス症候群』と同票、同時受賞)。
私は、公開開票及び記者会見を居合わしすことができたのだが。本作の受賞が決まった際、正直言って、少々意外な気がした。著者は、『夏と花火と私の死体』でジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞し、17歳でデビューした異色の「アンファン・チルドレン」。今、もっとも時代の空気を映す作家の一人だして注目を浴びているが、個人的には、彼がミステリ作家、それも、「“謎”に捧げられた物語」である「本格」の書き手であると言う認識はほぼなかった。もっとも、「では、ミステリとは何ぞや、本格とは何ぞや」と突き詰めて問われると完全にお手上げでなので、この認識も、極めて感覚的なものであるが。
というわけで、この作品のどこが本格ミステリとして優れているかを論じるのは、識者の方にお任せするとして、「同時代的小説」としての本作の魅力を私なりにお伝えしようと思う。
本作は、高校生の「僕」と女友達「森野」が登場する短編6編を集めた連作集である。
「僕」と「森野」は、処刑道具や拷問など、人間の暗黒部分に惹かれる者たち、すなわち、「GOTH ゴス」と呼ばれるスタイルを実践する者たちに分類される。殺人事件の現場を「観光」するのが趣味である「僕」、黒ずくめの服装をし、死体になった自分を想像しながら眠りにつく「森野」。人がおもわず目をそむけるような残忍でやるせない犯罪に興味を持たずにはいられない二人は、犯罪に引き寄せられ、あるいは、自ら犯罪を引き寄せる。
常連になっている喫茶店で連続殺人事件の手帳を拾ったり(『暗黒系』)、被害者の手首だけを切り取る「リストカット事件」の犯人に狙われたり(『リストカット事件』)・・・。
このコンビは、構成上からすると、いわゆる「狂言回し」の役割を果たし、「僕」は、謎解きも担う。しかし、著者が彼等に与えた役どころは、実は、そんなに単純なものではない。