『秋に墓標を』
大沢在昌 角川書店 1667円
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■大沢作品にしては異色、「静かな」主人公。彼の運命を変えたのは、過去でもなく、野心でもなく・・・
千葉県勝浦の別荘地の数少ない定住者。職業は、漫画原作者。趣味は、釣りと料理。愛犬と二人暮らし。年齢40歳前。それが本作品の主人公だ。
身上のみから判断すると、彼はあまりに「普通」である。
もちろん、大沢作品のファンの中には、「それはあくまでも現在の話。過去に何かワケありなんじゃないの」とを思われる方も多くいらっしゃるに違いない。
私もその一人。
元・刑事?それとも犯罪に絡んで隠遁生活?何をやったの?
主人公・松原龍の「前科」が暴かれる部分に遭遇するのを楽しみに前半を読み進めたのだが・・・。
どこまで読んでも出てこないのである。
ちなみに、松原龍の前職は、東京六本木でのクラブ経営。どちらかというと、ダークサイド寄りではあるが、大きなトラブルがあった風でもない。都会での消耗的な生活を嫌い、漫画原作の新人賞を獲得したのをきっかけに、外房総に越す。
本当に、それ以上でも以下でもない。
海辺の町で、自分自身が立てた規範にしたがって、淡々と仕事をし、釣りをし、料理をし、眠る男--。多少頑固が過ぎる嫌いはあるが、ハードボイルならぬ「男のライフスタイル系」エッセイに出てきてもおかしくないような男なのだ。
そんな主人公が、殺し屋、CIA、FBI、チャイニーズマフィア、警視庁、公安といった「ハードボイルド・オールスター」とでもいうべきクセモノの人種、組織と渡り合うハメになる。
何が彼をそうさせたのか?