『ブラックジャックによろしく』(1~5)
佐藤秀峰/作 長尾 憲/監修 講談社モーニングKC 各533円
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■患者のため体制を無視して突っ走る若き研修医・斎藤。医者は、かくあるべきか?
単行本1~4巻は410万部突破の話題コミックである。最新刊5巻も発売になったが、青年誌で現在も連載中早々とテレビドラマ化されたことだけでも、この作品の反響の大きさをうかがえるだろう。
さて、今更、といわれそうだが、ストーリーは・・・
超エリートの集まる永禄大学医学部を卒業、現在は同大学付属病院の研修医である斎藤英二郎。月給3万8000円、一日の平均労働時間16時間という超ヘビーな状況ながら、医師としての使命感に燃えていた彼は、基礎研修の合間に「バイト」にいった私立病院で、医療の現実を目の当たりにすることになる。さらに、基礎研修を終え、の第一外科、第一内科、ベビーERと各科の研修を積むことになった彼の前に立ちはだかった現実は・・・。高額な金額を受け取っておきながら、臨床がまったくできない教授、延命処置を認めない医師、同じ病院でありながら「医局」という組織の壁のせいで満足な説明を受けられないまま、生存の可能性の低い手術を受けさせられようとしている患者・・・。斎藤は、大学病院の矛盾や不条理に葛藤し苦悩しつつも、患者を思うあまり、体制を無視して突っ走る。
というわけで、この斎藤英二郎クン、とにかく、熱い。あつくるしいほど熱い。とにかく、真摯。息が苦しいほど、真摯である、
意識の戻る可能性のない老人に日々話しかける斎藤。
死期を感じ取った患者に、涙を流しながら真実を告げ、ボロボロ涙を流す斎藤。
彼のために、「大病院の医師」のプライドを捨て、専門医のもとに手術依頼に走る斎藤。
超未熟児で生まれた双子の生存を望まないと宣言した親から親権を奪ってでも彼らの生命を救おうと思い詰める斎藤。
この作品を「若き医師・斎藤の成長物語」として読むなら,苦悩し、葛藤しつつも信念を貫こうとする彼の姿には、心を打たれる、というほかはないだろう。
だが、ほんの少しでも現実と照らし合わせて読むなら、私は、彼に対して単純に賞賛する気持ちになれず、疑問ばかりが湧きあがってくる。
医者のすべてが主人公のようであればいいと願うべきなのだろうか?
医師という職業の人間に、個人の幸福や社会的栄達や安らぎを求めるな、という権利が誰になるのか?
そもそも、個人の人間性や職業意識の向上といったレベルのことで、の現状を変えることができるのか?
疑問、疑問、疑問・・・、そして、敗北感にも似た重い苦い読後感。コミックがエンターテインメントであるという点からいくと、この作品は、とてもじゃないが、単純には楽しめない。
だが、それでも、本作品は、書かれるべくして書かれた作品であり、読まれるべき作品であると思う。それは・・・。