『望楼館追想』
エドワード・ケアリー/著 古屋美登里 角川書店
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■蝋人形舘の守衛など、異色の経歴を持つ著者のデビュー作。奇妙な主人公、行間からたちのぼる異形のイメージ。そそられます!
白い手袋を常に身につけた三十七歳の「僕」。どこにである小さな町の古い舘を改造した集合住宅の一室に物言わぬ両親とともに住む「僕」。蝋人形館に雇われた「生身の人形」あるいは「半蝋半人」として街の中心部の台座に立つ「僕」。そして、986点の展示品を納める「博物館」の学芸員であると自らを語る「僕」・・・
なんとも、そそられる設定である。
そそるのは、主人公だけではない。全身から常に汗と涙を流している元・教師、外界に一歩も出ず、テレビを見続ける老女、人語を解さず、犬と同衾する「犬女」・・・。エキセントリックでシュールな彼らが住むのは、新古典主義の古い館、とくれば、お好きな方にはたまらないはずだ。
著者であるエドワード・ケアリーは、ロンドンのマダム・タッソー蝋人形感の警備員(なるほどね)など、多くの職を経験した後、テレビ脚本などを手がけ、事実上のデビュー作である本作を2000年に発表、「ガーディアン」「ロンドン・タイムズ」など、主要メディアで高い評価を得た。
「お好きな方にはたまらない」のだが、このコラムをお読みの方の中には、「翻訳ものは苦手、ミステリー以外は読みません」という人も少なからずいらっしゃるのではないかと思う。だが、あえて言う。その信念を曲げて、どうか手にとってくださいませ。すべての人が、とは言わないが、かなり多くの人にとって、どんどん先を読みたくなる、なのに、読み終わるのが惜しい――嬉しいジレンマをじっくり噛みしめられる作品だと思うからである。
さて、その物語とは・・・。