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たまにはじっくり文芸書 『月は静かに』(2ページ目)

魂の根源を問いつづける著者の久々の長編作『月は静かに』に紹介。戦災孤児としての苛烈な日々の末たどりつい不毛の地で作庭に没頭する男K。彼の魂がたどりつくのは歓喜か、それとも・・・。

執筆者:梅村 千恵



■「庭」という宇宙を通して問い続ける「生」と「死」の根源

本作の語り部たる「庭」を作った男Kは、戦災孤児である。孤児院におい育ち、「魂の死」をもたらすそこに火を放って以来、泥棒という反社会的な行為によって生をひさいできた、いわば、「裏街道を行く者」である。
彼は、苛烈な日々の末にようやく獲得した自分の場所で、硬い土を耕し、山林から切り出してきたホンシャクナゲを植え、岩石をくだいて小道を作る。そして、同様に生い立った童女のような面差しを失女・Fを迎え入れる。
「庭」の外では、戦争の悲惨と不条理を忘れきって繁栄に奔り、やがてそれに倦む社会が存在する。だが、二人の男女と「庭」の日々は、その圏外にある。人為的なるものと人為を寄せ付けないものがその息遣いを一つにする世界で、男女の性を超越した濃密な関係を育くむ男と女。だが・・・。

男Kと女Fをはじめ、登場する「人間」はすべて、戦争という圧倒的な暴力によって幼くして人生をねじまげられた者たちだ。憤怒と哀しみに満ちた生の末に、彼らが「庭」に求めたものは、「癒し」などという言葉で表現しきれない。ある者は、「庭」と同化し、ある者は、「庭」を見捨て、ある者は「庭」を無視し、ある者は「庭」を憎む。しかし、彼らは、やがて「庭」に戻ってくる。彼らにとって「庭」は、魂を抱く宇宙そのものであるのだ。

考えてみれば、「庭」というのは、人工的であることを前提とした建造物とは異なり、何らかの形で自然を模したものだ。すなわち、「庭を造る」というのは、一種、自らを神になぞらえる行為なのかもしれない。それへの異常な情熱を傲慢、あるいは狂気を呼ぶのは容易い。しかし、何かを創る、という行為は、おしなべてそうでないといえるだろうか。

自ら創造した宇宙に生き、死んだ主人公。その生と死を一切批評することなく、ただ抱きつづける庭、そして、そこを浩々と照らす月の光。最終章に展開する作品世界は、静謐にして圧倒的な力で読む者の魂の底を揺さぶる。この力、この感じ、丸山健二、健在なり!である。
日常と地続きの軽め作品にちょっと食傷気味の方にぜひ。

★あえて、アラ、捜します!
個人的に、超、超リスペクトしている作家なので・・・。でも、やっぱり、今度は、崇高な自然の地じゃなくて、薄汚れた都会に壮大な幻想が出現するギンギンのピカレスク大作が読みたいです。

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