■主人公や舞台設定、その動き、心の流れなどディテールの解剖から見えてくる世界観、歴史観
一言でいうと、本書は、批評作品である。
あとがきで、著者は、こう書く。「優れたアニメ作品そのものが、外界に対する観察力の批評的行為である」。そして、著者は、本書で言葉によってそのことを実践したのである。
必然的に、作品の詳解もけっしてその魅力を解剖する、というようなものではなくなる。
著者は、各作品の舞台設定から、主人公や登場人物のフィジカルな動き、果ては、小道具の一つ一つまでを俎上に乗せる。彼がキャラクターをどう動かすか、時間や事象をどう変化させるか、草木・動物などをどう配置するか、それを凝視することによって、宮崎が人間を、時間を、事象を、自然を、どのように捉えているかを探ろうとする。
宮崎は、待機の流れからメカにいたるまで、画面上のすべてを統率すると言われている。『天空の城ラピュタ』や『未来少年コナン』に登場する階層的建物。ナウシカの落下と飛翔・・・その表現一つ一つが宮崎の世界観、人間観の表現なのである。著者は、そこに迫り、それを「宮崎アニメを受け入れた時代」に関連づける。
宮崎の世界観は、すなわち、彼のアニメを愛した世代の世界観の一段面であるのだ。
さて、再び。私事。本書は、「宮崎アニメはこう見ろ」といったガイド本では、けっしてない。だが、読み進めていくうちに、冒頭にあげた「こんな難しい映画が子どもにわかるの?」という疑問の答えは、何となく見出せたように思う。読み終わると、ちょっとまだ見ていない『千と千尋』のビデオを見たくなった。
アニメファンにとって興味深い内容であるのはもちろんだが、むしろ、社会的現象となった宮崎ブームを冷ややかに見ている人におすすめしたい。
★あえて、アラ、捜します!
二段組でびっしりの、作品の解説。本書にとって欠かせざるものなのですが、興味がない人にとっては、ちょっと苦痛かも。
この本を買いたい!
フレームを超えて展開する宮崎駿の世界を体感したいなら「三鷹の森スタジオジブリ美術館ホームページ」へ。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。