■成就せず、変質しない思いは、心の奥底で静かに熱く燃え続ける。それを切ないと言わずして・・・
彼女たちは押さえきれないそれぞれの思いに揺れている。ある意味、年甲斐もなく。
死期の迫った男への狂おしい熱情、若い頃の激しい恋の記憶、年下の男への淡くも猛々しい思い・・・・。それは、進行形であろうが、思い出であろうが、明らかに「恋」である。しかし、その「恋」は、彼女たちの人生の軌跡そのものを変えることはない。
彼女たちの恋は、成就しない。
そして、成就はしないが、その分、変質もしない。
恋が恋のままで、思いが思いのままで、封印され、彼女たちとともに生き、彼女たちの生の終わりとともに灰になる。表題作『夜の寝覚め』に登場する、思ってはならない人への思いを抱いたまま、静かに死を待つ綾子は、その象徴であろう。
心の奥底に封印された思いは、それでも、ふとしたきっかけで熱い炎をふきあげる。その熱さは、本人にしかわからない。そして、その熱さの裏側には冷たく冴え冴えと醒めた諦念がある。
再婚相手と乗った新幹線の中で、ともに若かりしころ死を仲介として激しく求め合った男に似た人をみかけ、まだ生きている自分、これからも生きて行く自分が歩んできた道のりの長さを思い、熱い思いに唇を震わせながら、車窓から闇にふる雨を眺めつづける『旅の続き』の弓子。
彼女の姿を、切なく、激しいと言わずにして、何を切なく、激しいと言うのか。
まあ、男性諸氏には、「結局、女は灰になるまで女ってことだろ」と言われそうなんだけど、それもそのとおりなんだけど・・・。
暴論を覚悟で年齢限定するなら、30歳以上の女性の方へ、おすすめです。
ご主人やお子様が寝静まってから、じっくりお読みください。
胸騒ぎます。ため息ものです。その時間こそが、宝です。
★あえて、アラ、捜します!
主人公たちと近い年齢に突入しつつある友人と「現実にはやっぱりないわよね~」。小池作品は、どこか現実離れしてる。でも、そこが魅力だし、それでもって、もしかすると、もしかして・・・。
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●短編ミステリーの名手としても人気の著者。このジャンルの情報をチェックしたいなら「ミステリー・ホラーの情報ページ」へ。
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