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「子別れ(子は鎹)下」について…泣ける落語の注目ポイントを解説

今回は、落語の中でも「泣ける落語」として代表的な「子別れ(子は鎹)下」を紹介します。落語を「面白おかしいもの」とイメージする人が多いのではないでしょうか。しかし、落語はそれだけでなく、思わずホロッとしたり、時には涙あふれるイイ噺がたくさんあります。

執筆者:清水 篤司

滑稽噺だけが落語じゃない!

泣ける落語紹介!「子別れ(子は鎹)下」

落語会や寄席では、笑い声だけではなく、シーンとした場内ですすり泣く声がだけが響くときもしばしばあります

落語はその字のとおり、落ちがある噺(落とし噺)のことです。話の落ちあがるというと、みな面白おかしい物語ばかりを連想するでしょうが、落語の演目がすべて、そいうった滑稽話とは限りません。

落語の演目の中には人情噺と呼ばれる、親子愛、夫婦の情愛、師弟愛、男女悲恋など、人情味あふれ感銘を与えるような演目が数多くあります。

その多くが、歌舞伎や映画にお芝居と、様々なエンターテイメントの物語に影響を与えたり、そのまま使われたりしています。
 

落語の醍醐味、大ネタ人情噺

この人情噺と呼ばれるネタは、演じるのに1時間近くかかる大ネタと呼ばれる演目が多く、寄席のトリや落語会や独演会でしかお目にかかることはできません。

人情噺はストーリー性が強い上、物語りも長く、笑いも少ないので、その物語にお客さんを引き込む力量がなければ演じきることができません。それゆえ、噺家もここ一番のときに、自分が得意の人情噺を高座にかけるようです。

笑いが少なく、物語重視の人情噺を自在に演じるようになれれば一流の噺家といえるかもしれません。今回はそんな、落語の醍醐味の一つでもある、泣ける人情噺を紹介します。
 

「子別れ(子は鎹)下」は親子の情を描く

子別れ 古今亭志ん朝
落語名人会(24) 古今亭志ん朝16 お化長屋/子別れ・下 :お涙頂戴ではなく、あっさりとした語り口が心地よい余韻を広げる、志ん朝の「子別れ・下 」
泣ける人情噺の代名詞といわれるのがこの「子別れ(子は鎹)下」でしょう。「思わず、泣いてしまった落語は?」と落語好きな方に問えば、この演目を挙げるはず。

夫婦と親子の情愛と絆を、分かりやすく、簡潔に描いている人情噺の傑作の一つだと思います。日本人の琴線に触れるストーリー構成で、号泣というより思わずホロッする落語です。



 

場面は、とある長屋から始まります

子別れ 三遊亭歌之介
キング落語名人寄席 子別れ/B型人間 :爆笑落語家として超人気の師匠ですが、今まで一番泣かされたのが三遊亭歌之介の「子別れ」です。
腕がいいが酒癖が悪く、あまり働かない大工の熊は、女房と子供に迷惑をかけているのに関わらず、悪態をつき、二人に出て行かれてしまう。その後吉原の女郎を引っ張り込むが、その女郎は家事一切をやらず寝てばかり、家から追い出そうとする前にその女郎も出て行く。

その日以来、熊は断酒をし、一生懸命になって働き、大工として身を持ち直す。一人になって、初めて女房の有難さや子供の愛しさに気づくが、今ではもう遅いと後悔する日々。

ある日、仕事先の番頭さんと一緒に、仕事で使う木材を選定するために、木場に行く途中で、出て行かれた子供の亀とばったり会う。番頭さんに時間をもらい、久方ぶりの父子の再会に時を忘れる。今では持ち直した、父親を見てびっくりする亀。
 

元女房と子どもが苦労している現実を知る

出て行った女房のお光(みつ)ことを遠まわしに聞く熊に、「おっかさんは、今でも独り身だよ」だと、熊の本当に聞きたいことを子供の亀に言われてしまう。

お光は近所の仕立て物をしながら、貧しいながら女の身一つで亀を育てているらしい。さらに今でも、「お前のお父さんは、本当はいい人で、お酒があの人をダメにしているんだ」といつも言い聞かせられているとのこと。別れた父親の悪口は言ってないことに、愕然とし、涙がこぼれる。

熊は、亀に五十銭の小遣いを渡し、「明日、鰻をご馳走してやる」と約束し、「俺と会った事はお光には内緒にしろ」と告げて別れる。
 

一番の泣かせどころは「子どもを叱るシーン」

古今亭志ん朝 の「子別れ・下
落語研究会 古今亭志ん朝 全集 上DVD:予約前のセット物ですが、動く古今亭志ん朝 の「子別れ・下」が唯一みれるのがコチラ
家に帰った亀は、もらった五十銭を母親に見つかる。「親として、その人にお礼を言わなければならない」と諭す母親に、父との約束を守ろうと必死にごまかす亀。しかし、母のお光は何度も「誰にもらったのか?」と、厳しく問いただす。

最後に、お光は家を出るとき、夫の形見として持ってきた金槌を振り上げ、「おまえにだけは、ひもじい思いをさえまいとがんばってきたのに…なんで? 人様のお金に手を出したんだよ! 貧乏だからってそんなことをするような育て方はしてないよ! 」「これは、お父さんの金槌だよ! お父さんが叩くんだよ! 」と泣きながら、怒るお光。

お光の迫力に亀は父親に会ったことを泣きながら白状してしまう。ダメ亭主が真面目になったことを知り、うれしさを隠しきれないお光。でも、いまさら、もとの鞘に戻るのもはばかれる。
 

ハッピーエンドが予想されるクライマックスへ

翌日亀坊におめかしをさせ、送り出してやる。お光自身も、いても立ってもいられず自分も身なりを整え、後から鰻屋の店先へ向かう。

偶然を装い、鰻屋へ出かけ亀を呼び出し、熊と対面、二人とももじもじするだけで、何も言わない。じれったくなった亀が二人の仲を取り持とうと...
 

この後の結末は、寄席や落語会、もしくは落語CDでお聞きください。この「子別れ(子は鎹)下」は数多くの噺家達のCDがありますので、手軽に手に入ると思います。また、数多くの名人上手の「子別れ(子は鎹)下」を聞き比べるの楽しいかもしれませんね。

時代が移り変わろうと、親子の情は変わらない。いつどこで、聞いても涙が流れ、様々なことを考えさせられてしまう演目です。世間で騒がれている親と子の道徳教育問題などは、この演目を聞かせれば解決する気がするのは私だけでしょうか?

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