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年末は「芝浜」を聴く(2ページ目)

年末の落語の演目といえば「芝浜」と多くの落語ファンが答えるはずです。今回は落語ファンにとって年末の風物詩である「芝浜」の魅力をたっぷり紹介します。

執筆者:清水 篤司

人情噺の多くは特にこれといったサゲ(落ち)はほとんどないのですが、「芝浜」だけは「よそう。また夢になるといけねぇ」という、この演目のすべてが集約される完璧なサゲがあります。

また、噺の筋もよどみなく、完成されているので、多くの噺家達が一度は「芝浜」を演じたいと考えています。

それゆえ、ほとんどの名人上手とされる噺家達はこの「芝浜」をここ一番の高座で演じています。

ここでは私がオススメする各噺家達(三代目・桂三木助以外)の「芝浜」CDを紹介しますのでぜひ、聞き比べてみてください。

「哲学的な芝浜」・立川談志

立川談志 古典落語特選 3 音だけでなくDVDの映像で家元の「芝浜」を堪能しましょう
三代目・桂三木助によって完成されたといわれる「芝浜」を自らの十八番とし、談志版「芝浜」に仕上げている。といっても、これで完成というわけでもなく、談志は「芝浜」を演じるたびに新しい試みをし、常に「芝浜」を磨き続けている。それほどこの噺は奥の深いものなんですねぇ。

私は立川談志の「芝浜」を聴くたびに様々なものが見え隠れし、考えさせられる。主人公・勝の心情、女房の心のゆれ、物語には描写されない二人の本心。人間の業を。立川談志の「芝浜」はまさに「哲学的な芝浜」であると思います。


「ハッピーエンド芝浜」・古今亭志ん朝

どのCDを聴いても外れがない古今亭志ん朝。この芝浜ももちろん当たりです
どんな演目を演じても明るく仕上げてしまうのが志ん朝の最大の魅力でしょう。

とくに「芝浜」はハッピーエンドな噺なので、志ん朝が演じると、なおの事その魅力が引き立ちます。聞き終わった後に一番、清々しく感じる「芝浜」になっているのではないでしょうか。

志ん差朝の「芝浜」の特徴はなんといっても主人公である亭主の江戸っ子調です。聴いているだけで威勢良い亭主の姿が見えてきます。

「最高の女房像を確立した芝浜」・柳家小三治

たっぷり1時間以上の収録です。夫婦の馴れ初めなど、他の噺家達が表現しない内容も細かく描写してます
個人的に小三治の「芝浜」が一番好きです。この人の演じる女房が本当に最高。惚れてしまいます。すべての男性が「女房はこうであってほしい」と望む最高のおカミさん像を噺の中で作り上げてくれています。

ぜひ、奥さんと些細なことで喧嘩したときに、柳家小三治の「芝浜」をお聞きください。きっと女房の有り難さや大切さをしみじみ感じ、仲直りしたくなります。


「進化する芝浜」・林家たい平

DISC2枚組みで「芝浜」の他に「不動坊」「七段目」も収録。お得です
正直、名人上手と言われる噺家達の「芝浜」に比べれば、まだまだ物足りませんが、現代にも通用する「芝浜」を作り上げようとしています。もしかしたら、若い人達にはもっとも聞きやすいのかもしれません。

最近の噺家達は一つの噺をじっくり時間をかけて、自分の十八番とする試みをしないように思えます。しかし、林家たい平はここ数年、自らのライフワークとして年末になると「芝浜」を演じ続け磨き上げています。もしかしたら近い将来、落語ファンが思いもよらなかった新しい「芝浜」を作り上げてくれるかもしれません。

CDだけでなく、磨き続けられているたい平版「芝浜」を一度、ご覧ください。

大晦日の晩、「芝浜」を聴ききながら新年を迎えるなんて過ごし方をしてみてはいかがでしょうか。
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