『スラムドッグ$ミリオネア』ダニー・ボイル監督インタビュー【後編】
来日記者会見には、日本版「クイズ・ミリオネア」の司会者・みのもんた氏が登壇。オスカー目前のため、リッツカールトンホテルによる「特製かつ(勝)カレー」(お値段約3万円)を仲良く召し上がる場面も。 |
◆確かに。でも、それだけではありませんよね?
ダニー・ボイル:ええ、そうですね。世界不況の中、人々がその長い旅の後に希望を求めていたり、オバマ大統領が当選した事に見られるように変化を望んでいたり、外のものに対してよりオープンになってる傾向も影響しているかと思います。
◆話は戻りますが。主人公は無学な少年でしたが、彼は自分にとって大切なものが何か明確で、そこも魅力的でした。
ダニー・ボイル:要因の一つは、スラムドッグ。彼の人生の沢山の経験が、クイズショーで出される質問の答えに繋がっているんですよ。勝ちそうもない弱者が夢と強い決意を持って、すべてを乗り越えていき、逆境から学んだことが答えに結びついてゆく部分も人々を惹きつけているのだと思います。
◆リアリズムとファンタジー、どちらを描きたいと思いましたか?
ダニー・ボイル:まず、前半はできる限りリアルに心がけたいと思いまして。ムンバイのスラムの世界や人を映すべく、実際にスラムでの撮影をしました。そして、後半部分はおとぎ話にしたかったんです。それによって、我々皆が持っている夢は叶うんだという、希望に響くものにしかったからです。
◆そういえば、本作の製作中に運命を感じたとか?
ダニー・ボイル:インドでは、運命を受け入れるのと同時に恩恵を授かりました。運命というと、何かロマンティックなものを想像しがちですが、インドでの撮影を通じて深淵なものであると感じました。
それに、主人公ジャマールのキャスティングの際にも運命を感じましたね。18歳前後のインドの俳優たちは、ほとんどが体を鍛えているタイプ。“負け犬”タイプの少年は、なかなか見つかりませんでした。そんな時、娘が「デーヴ・パテルさんがいいかも」とテレビに出ている彼を薦めてくれたんです。彼も私もロンドン在住。世界中を探したのに、求めていた俳優は、すぐ側にいたんですよ。
◆DVDスルー作品が、劇場公開に。世界の映画祭で話題になり、そして映画賞の頂点であるアカデミー賞にて最多8部門を受賞。まさしく劇中同様で「奇跡は身近に」ですね。
ダニー・ボイル:多くの俳優がもつ形や経験にとらわれない自由が私は好きなんですね。それでも、人間の成長を映し出すのは難しかったですね。事実、彼ら(出演した子役の)ほとんどが演技経験がない。でも、それがプラスになりました。彼らは映画作りの技術的なことは知らない。けれども、それを補う新鮮さがある。私自身、できる限りそういう性質を維持しようとしています。
自分を信じること、努力を続けること。それに、他者を敬うことを心がけているぐらい、かな。
【後記】“オスカー監督ダニー・ボイル”は、とても謙虚。それでいて超チャーミング!
南にとってミリオネア級のご褒美となった作品でして。12月25日に鑑賞し“クリスマスの贈り物”のようだった、と来日したボイル監督に直接感想を伝えて、がっちり握手できたんですから。ダニー・ボイル監督、本当にありがとうございました。