【映画で知る世界-第5弾】
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©Sixteen Films Ltd, BIM Distribuzione, EMC GmbH and Tornasol Films S.A. |
世界中を感動で包んだカンヌ映画祭パルムドール大賞『麦の穂をゆらす風』から2年。いかに名匠とはいえ、これほどの傑作をつづけて完成させるとは!と誰もが驚くことだろう。ベネチア映画祭では、最優秀脚本賞に輝いた本作。だが、贈られた賞賛にはケン・ローチ監督への尊敬が込められ、最高賞にも勝るほどだったという。
『この自由な世界で』のヒロインは、一人息子ジェイミーを両親に預けて働くシングル・マザーのアンジー。彼女は前職の経験を生かした外国人労働者を専門とした職業紹介所の運営を自分で始めることにした。必死にビジネスを軌道にのせるアンジーだが、ある日、不法移民を働かせる方が儲けになることを知る。同時に法に触れない裏技も知る。もっとお金があれば息子と暮らせるし、もっと幸せになれると信じて、越えてはいけない一線を越えたとき、事件は起きた……。
映画の背景には、競争によってより大きな利益を追う現代社会や移民労働者の問題。それは「自由市場」の世界(そこが原題の[it's a free world...]に)。きれいごとだけでは生きられないというが、品格も美学もない世界。でも、それが現実。映画にも描かれているが、移民労働者の多くは、正規労働者のような権利を保障されていない場合があるということ。日本でも、同じような現実を抱えていると思うが、大題的に表面化することはないのだろう。つまり、連日ニュースで取り上げられ、人々の最大の関心ごとになるという状態。先々は予測しがたいことだが。
映画の公式サイトによる説明では、「イギリスでは現在、居住権(Right of Abode)を持つすべての英国市民、および欧州経済地域(EEA:European Economic Area)の加盟国民に対しては、イギリスにおける居住と就労に制限をしていない。しかし、2004年5月のEU拡大以前のEEA加盟国民に制限はないが、EU拡大で新規に加盟した8カ国(加盟したのは10カ国だが、そこからキプロス、マルタを除く)からの労働者に対しては、労働者登録計画(WRS:Worker Registration Scheme)による管理を行っている」とある。このことを踏まえて鑑賞すると、より理解しやすい作品。
『この自由な世界で』 |