『呉清源 極みの棋譜』田壮壮監督インタビュー
田壮壮:たくさん撮影したけれど、上映時間の問題でカットした映像も多い。7年前に呉先生の本を読んだ時は、精神面よりも、経歴や、彼が人に与えた影響を物語として描くことに興味を抱いていたんです。ところが映画を作ることになり、呉先生に密に接することになりました。すると先生の心の世界に感動したんです。そこで、どう撮るかを私なりに考え直したわけです。 呉先生は、現在90歳を超えています。仮にその人生を1年=1分で表現したとしても、それではすぐに1時間半の映画になってしまいます。そういった撮り方では映画にできない! やはり何か重要な部分を表現しなければ、と思ったんです。一方、プロの囲碁の世界は、見た目はかっこよくてすばらしいが、映画にするにはセレモニーや対局を撮るしかない。そうなると囲碁を知らない観客には何も分からない話になってしまう。そういったことから精神的な世界を撮った方がいいのではないか? と、製作途中に考えたからです。 ――完成までに、ずいぶん時間を要しましたね。今のお気持ちはいかがですか? 田壮壮監督:ええ、金銭的な問題がありまして撮り終わってもポストプロダクションに入れなかったんです。完成させるために金策に奔走しましたよ。今振り返ると編集段階が一番忘れられないな。フィルムの現像代がなくて、現像までに時間が経ってしまいフィルムの表面が汚くなってしまったからね。だから編集のために、映像をひとつひとつ見た時は感無量でしたよ。 編集する間もプレッシャーが大きかったので、あまり細かいことは考えなかったけれど、編集するにつれ一つ一つの場面が思い出されましたね。冒頭の呉清源先生の家のシーンは、一番最初に撮ったものです。みんなが抱き合って泣くシーンも詳細に脳裏に蘇ってきた。ロケを行った滋賀県近江八幡の風景など次々と目に浮かんできて、とても懐かしくなりました。 ――実在の人物、外国(=日本)での撮影。難しかったことや、気をつけたことはどのようなことですか? 田壮壮:映画は、どこで撮影しても基本は一緒だから、あまり難しいことではない。問題は、十分な資金があるか否かだよ(笑)。 たとえば、さっき話に出た呉先生の愛情表現だけど。呉先生が私たちに語ってくれた話を基にしています。けれど、先生の話が真実かは分からないことですよね。ではどうすればいいか?という場合は「時代」と「キャラクター」にあっているか判断しなければならない。そういう意味では、監督は言いたいことを言うだけ(笑)。当然、事実関係には基づかなければならず、呉先生が見て「監督、やりすぎたんじゃないの?」と思わないほうがいい。その範囲内に収めることが難しかった。 ――チャン・チェンさんが「監督の現場は和やか」だと話してくれました。現場で心がけているのはどのようなことですか? 田壮壮監督:映画撮影で一番大事なのは監督だ! と、みなが言うよね。私もそう思う。監督はどう撮っていくか、映画全体をコントロールする重要な責任を負っているからだ。ただ問題は、私が「いい監督ではない」こと。 ――これまで見て触発された映画を教えてください。 田壮壮監督:中国映画では『春の惑い』(2001)のオリジナルとなったフェイ・ムー[費穆]監督の『小城之春』(1948)は、何度見ても感嘆し、圧倒されるね。日本映画ならば、黒澤明、小津安二郎監督の作品が特に好きだよ。今村昌平監督の作品にも強い関心を持っていて、初期のモノクロ作品はすごいね。最近の『うなぎ』(1997)のような作品は、誰にでも受けるものではないかな。ちょうど『うなぎ』の撮影中に、今村監督にインタビューする機会があり、色々と影響を受けた。ヨーロッパでは『トリコロール』などのクシシュトフ・キシェロフスキ監督作が好きだね。東欧の作品には、「知恵」を感じるよ。 |
『呉清源 極みの棋譜』
©2006, Century Hero, Yaemon Bukly Co. |
Interview with Director on [THE GO MASTER]
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