『呉清源 極みの棋譜』チャン・チェン[張震]インタビュー
チャン・チェン:仕事を引き受けた時は、むしろ「ああ、自分が演じるんだ!」とわくわくしたことを覚えています。難しい役なので一生懸命いい演技をしたい、事前に色々な準備をして撮影でベストを尽くしたい、それだけ。あまり難しいことや複雑なことは考えていませんでした。 ただ一つ。呉先生という人物像を把握することには、細心の注意を払いましたよ。呉先生は、ご健在なのですし、先生を知っている方々が大勢いらっしゃるから、呉先生に近づくように心がけました。あまりやりすぎてもいけないので、さじ加減は難しかったですね。 そのために呉先生の自伝を熟読し理解することを行いました。ただ、先生の年代の話は、想像だけでは理解しにくい部分もあったのも事実です。そういった難しい面は、監督と話し合って何とか乗り越えられました。撮影当時は、精神的なプレッシャーをかなり感じていたんです。 ――撮影時の思い出を教えてください。 チャン・チェン:初めての日本での撮影だったので、撮影中のすべてが思い出となっています。色々な映画に出演してきましたが、今回ほど役に入り込んで演じたことも、撮影クルーたちと和やかな雰囲気の中で仕事ができたこともなかったんです。撮影中は、役が難しいか否かといったことは考えたなかったです。振り返ってみると、この映画に出たことによっての収穫はとても大きかったです。 ――その「収穫」について伺えますか? チャン・チェン:撮影の終盤には、なんだか悲しく、寂しくなってきました。少し大げさな言い方になるかもしれないですが、今まで経験したことのない空虚な気持ちでした。その体験によって演技にますます興味を持つようになりましたし、一種の情熱のようなものが湧いてきたんです。今後どのような作品であっても、同じような気持ちで役に入り込むことができれば、きっといいかたちにできるし、満足感が得られる可能性があると思えるようになりました。それが一番大きな収穫だったと思います。 ──呉清源の愛情表現について。妻の脱退で傾倒していた宗教から遠のいていく、一種の愛情だと思えました。実際に夫妻に接して何を感じ、どう演じたか。 チャン・チェン:愛情(日本語が少々分かるために質問の時点で照れ笑い)。愛の表現の仕方は人それぞれ違うと思います。呉先生と奥様に接して感じたことは「2人は片方がいないとだめになってしまう」ベストパートナーだということ。 監督がおっしゃったように「すでに脚本は決まっているなか」で、いかに表現すべきか? ということ。脚本に書かれていたことは、観客にも伝わったと思います。で、正直に言うと、先ほどお話したように「あまり、こうしよう!」とは考えていなかったんです(笑)。物語の展開に沿った演技ができたから良かったかな、と思っています。 ――名だたる監督たちがチャン・チェンさんをキャスティングし「すばらしい俳優」とコメントを残しています。 チャン・チェン:(冗談めかして)僕は有名監督をコレクション(収集家)しているんだ(笑)。 いつも言っていることだけれど、役者は受け身の立場。仕事を引き受けるかどうかは、まず脚本を読んでみます。脚本が気に入れば、演じてみたい!と思うもの。 ――6月にお亡くなりのエドワード・ヤン[楊徳昌]監督は、チャン・チェンさんの映画デビュー作の監督ですよね。 チャン・チェン:エドワード・ヤン監督は、とても重要な人ですね。もしもヤン監督がいなければ、僕は役者になっていなかっただろうし、映画にも出ていなかったでしょう。ヤン監督が映画製作の楽しみを僕に教えてくれた。いつも夢をもっていて、若い俳優たちにエネルギーを与えてくれる人でした。本当に感謝しています。 ――俳優という厳しい仕事を続ける上で、精神的な支えにしているのは何ですか? 精神的な弱点があるとしたら? チャン・チェン:精神的な支えは、映画に対する情熱と、演技を探求する心、でしょうね。 弱点は、緊張しやすいところでしょうか。演技をする時に一番大事なのはリラックスすることなのに、どうしても力を入れすぎてしまう傾向があって。そこは弱点だと思います。 『呉清源 極みの棋譜』田壮壮監督インタビュー |
『呉清源 極みの棋譜』
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