アンソニー・ホプキンスは、「古典を教える教授であり、若い頃、ボクサーというものも信じられる。強い情熱をもった完璧主義者。それにこういうロマンチックな役を今まで演じていない。初めて女性とのロマンティックなキスシーンがある。初めて演じるものは、俳優にとっても興奮するものですし、観客側もおもしろいと思うんです」と語る。
ニコール・キッドマンとは前にも「『ビリー・バスケイド』で仕事しています。あの年齢で、あれほどの幅を持っている女優はほかにいないと思います。例えば『誘う女』『アザーズ』『ムーラン・ルージュ』『バースデイ・ガール』『めぐりあう時間たち』『ドッグ・ヴィル』『白いカラス』(と近年の作品まで次々に述べ)。「全て違う役柄を演じきっているでしょ」。なおかつ「他にあの年齢でそれを成し遂げているアメリカの女優はいないですね」と。
素晴らしい俳優がいて成り立っている映画だけに俳優一人一人をとても丁寧に語ってくれる。どうしても質問は、メジャーな俳優のことに集中してしまうのだが、一番大事な役は「若い頃のコールマン・シルクを演じたウェントワンス・ミラーだ」とロバート・ベントン監督は語る。原作を読むと「読者は3分の1までコールマン・シルクは、白人だと思います」。そして「彼が黒人だと知った時に、受ける衝撃」や「年をとったときにアンソニー・ホプキンスになると思える事」。また「白人にみえ。でも、いろの白い黒人だと分かった時に、そうか!と思える俳優が必要だったんだよ」。だから「彼を捜し当てられてことは奇跡なんだ」。実際、演じたウェントワース・ミラーは4分の1、黒人の血が流れているとか。
監督お気にいりのシーンは?と伺うと。「コールマンとフォーニアとレスター・ファーリー(エド・ハリス)が道路で衝突しそうになるシーン」。本当は、その車が池に落ちる直前に「カット」と声をかけるはずだったんですが…エド・ハリスの表情に見入ってしまって声をかけるのを忘れてしまった。その表情は、「原作者も私も書いていなかった内面的な葛藤を表していた」のだそう。
ゆったりと話されるロバート・ベントン監督 |
靴を脱いでのポーズもロバート・ベントン監督 | 名撮影監督二人を偲ぶロバート・ベントン監督 |
俳優ももちろん大事だが、2003年4月に心臓発作で亡くなられた撮影監督のジャン=イヴ・エスコフィエ(Jean-Yves Escoffier)のことを伺いたかった。彼は『白いカラス』が遺作となってしまった。これまでの作品に「アレックス三部作」や『ポンヌフの恋人』『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』『クレイドル・ウィル・ロック』『ベティ・サイズモア』などがある。質問直後、監督が本当につらそうな顔をされたので、聞いてはいけないことをしてしまった。(=映画と同じで聞かれると痛い部分)と後悔し、詫びると「話すのはいいことなんだよ」と次のように語ってくれる。
「5作品をネストール・アルメンドロス(フランソワ・トリュフォー監督とも組んでいた名カメラマン)と組んでいた。親友だった。私も俳優が大好きだが、ネストール・アルメンドロスは、私以上に俳優を愛していた」。そして「ネストール・アルメンドロスが亡くなって…落ち込んで…彼の死をひきずっていたところ、やっとジャン・イブ・エスコフィエに会えた」。「今まででも体験した事のないパートナーだったし、ロケ地まで毎日、一緒に車でいった。それに1週間に3,4日食事を共にした。また本の交換(貸し借り)もしたんだ」。ロバート・アルトマンの言葉をかりれば「映画はカメラでかかれるものだ」ってね。「ジャンも本当に俳優達を愛した人だ。そんな二人と出会えて私はものすごいラッキーだった…3人目はいないかも…」と言葉をつまらせる。
先日行った試写会に、日本人のお知り合いが多くいらしたので「お友達が多いんですね」と言うと「アメリカに日本の友達がたくさんいる」。その友人たちが『白いカラス』をすごく気に入ってくれたそう。「もしかしたら友達だからかもしれないけど(笑)」。「それで彼らが日本の家族とかに連絡して試写会に来てくれたんだ」、ココの話で初来日なのが分かった。来日して「日本人はとっても丁寧で礼儀正しいと知ったので、気に入らなくても口にしないんだよね」。す・・・鋭い。肯定も否定もしがたいのか…インタビュアー一同、笑って逃げる(これも非常に日本的)。
最後に1932年、米テキサス州生まれのロバート・ベントン監督に、これまでの映画人生について伺う。「とっても長く感じるときと、短く感じるときがあります」。ただ「作品選択は常に変わってなくて自分が感情移入、共感できるかがポイント」なのだそう。
『白いカラス』ロバート・ベントン監督関連作品ロバート・ベントン監督による(一部)コメント付き