アレクサンドル・ソクーロフ監督(c)Alexander BELENKIY |
華麗な美の迷宮を彷徨うのは、姿は見せず声だけが聞こえる現代の映画監督(声は、この映画の監督アレクサンドル・ソクーロフ)と、19世紀のフランスの外交官。2人に導かれて、私たち観客もエルミタージュの回廊を歩き、観劇しているエカテリーナ大帝や悲劇的な最後を迎えるニコライ2世の家族の晩餐などを覗いている気分になる。ロシアの歴史や貴重な絵画を見ているうちに、ラストの絢爛豪華な舞踏会へと続く。もちろん、ロシアの歴史や美術に詳しくなくても、この映画は楽しめる。でも少し映画のシーンの背景を知っていると、より深く味わうことができるはず。そこで『エルミタージュ幻想』のロシア側プロデューサーのアンドレイ・デリャービンさんに、映画の見どころなどを教えてもらった。
●女王の顔と普通のおばあさんの顔
プロデューサーのアンドレイ・デリャービンさん |
バレエの場面で、エカテリーナは「なかなかいいじゃない」と周りのものに言うところがあります。その時の彼女は、まさに女王様、権力そのものなんです。ところが次の瞬間、「トイレに行きたい」と、突然女王の顔から普通の人間に戻っちゃうんですね。たった数秒間でもってサクーロフ監督は、エカテリーナという女性の両極面を見せたところがおもしろいと思います。次のシーンでは、エカテリーナはすっかりおばあさんになっていて、「ハイハイ」をしている孫の様子を見守っている。権力というものはどういうものか、普通の人間とは……、ということを監督が如実に描いているという点で、このシーンは非常に気に入っています。