シリアスな現実
ガイド:
「都市夫は死ぬことにした」の歌詞は、引用探しゲームが出来ますね(笑)。「TOKIO!」へのアンサーソング?
松永:
自由に空を飛んでいた彼や自衛隊駐屯地で自決した彼、人間の尊厳をおぼえ書きに託した彼など、ここでは男たちの生が都市を計画する少女たちと対になって語られます。当楽曲では普段にも増して引用が多いですね。僕にとって引用とは死者たちや死せる書物(書物はそもそも印字された時点で固定され「死んでいる」訳ですが)との対話です。彼らの言葉が僕の肉体を通過し、更に浜崎の肉体を通過して歌われることで「今・ここ」に甦ればいいと思う。それこそ幽霊なのかもしれませんが、オカルティックというより文学的な意味において、僕は幽霊の存在を信じているのです。
浜崎:
実は、今の時点で特に気に入ってるのは、この「都市夫は~」から「ラヴクラフトの世界」の流れなんです。「都市夫~」は百万本のバラもモチーフになっててほんのり嬉しいし、なんだか迷いのない歌を歌えている気がします。
ガイド:
「ラヴクラフトの世界」は、今までになかったシリアスな「現実」を歌にしていますね!
浜崎:
「ラヴクラフトの世界」は自分で言うのもなんですが、今作のヴォーカルベストテイクだと思ってます。出来上がった時からすべてにおいて好きな曲だったのですが、アーバンの曲でここまで思い入れをして歌ったのは初めてだと思います。何を感じながら歌っていたかは聴く人の感性に委ねますが、聴いててグッとくる瞬間があって。一番客観的に聴ける曲かも。
トラウマ
ガイド:
アルバム全体を聴いて思ったのですが、現実だけの話でもなく、妄想だけの話でもなく「現実」と「妄想」が絡み合うことで発信されたメッセージを感じます。そこにある、疑念や恐怖や失望や後悔や反省、そしてほんのちょっとの希望。トラウマテクノポップという表現が使われていますが、確かにトラウマの本質かもしれませんね。
松永:
前回「少女は二度死ぬ」では妄想の世界で遊んでいられましたが、今回はのっぴきならないハードでコアな現実が混入してしまいました。コンビニの生菓子に混入された金属片のように棘のある世界観は人によっては悪意あるものと受け取らざるを得ないでしょうが、我々もそれを描かざるを得なくなったというのが実際のところです。前回のシングルカットである「水玉病」PVのラストシーンで登場した秋葉原の歩行者天国は、凄惨な事件の後に廃止されました。かわいい顔した街が一皮向けば刺すか刺されるかのディストピアに改竄される訳で、これこそトラウマかもしれませんが、そこで生きていかなくてはいけませんからね。最後の曲「ラヴクラフトの世界」にはそんな希望を託したつもりです。
浜崎:
前作から明らかに成長している部分を手前味噌ですが自分達でも感じてます。完成したものを聴いて、何かメッセージ性というか、ストーリー性というか、焦点が一つの方向に定まった印象を受けました。鋭利な刃物を突きつけられたような音作りが出来たのではないかと思ってます。
詩のボクシング
ガイド:
天馬君は、詩のボクシングにも参加されているらしいですが、これはどのような競技なのでしょうか? KO勝ちとかありですか?
松永:
対戦者二人が交互に自作の朗読詩を読み上げ、審査員に勝敗を決めさせるという競技です。KOはありませんがフルマークはあり得ますね。谷川俊太郎さんやサンプラザ中野さんなど、選手・審査員ともに有名無名を問わず多くの文化人が参加しています。実際には詩というより演劇的なパフォーマンスやピン芸のようなものを見せる人も多く、話芸としてのエンタテインメント性も兼ねています。面白いですよ。
僕が言葉の煽情性や刺激に固執するのは、詩のボクシングに長く参加していることも無関係ではないかもしれません。11月の大会では久しぶりに参加も予定しています。アーバンギャルドとは一風違う松永天馬を是非とも観に来て下さいね。
アーバンギャルド・ライヴ |