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80年代名盤レビュー『TOTO IV』(2ページ目)

82年に発表され、グラミー賞6部門を独占、80年代のアメリカを代表するロックアルバムとなった『TOTO IV』を紹介。

執筆者:田澤 仁


ヒットシングル「Rosanna」と「Africa」で見えるジェフ・ポーカロのすごさ

『TOTO IV』の中でも有名なのは、シングルとして全米2位になった「Rosanna」と、1位になった「Africa」だろう。今でもTVではアフリカの話題を取り上げるときに「Africa」、サッカーくじのTOTOの話題のときは安易にバンド名にひっかけて「Rosanna」がBGMとして流れるのが定番のようになっているから、この2曲は若いリスナーにもなじみがあるはずだ。

最初のシングルとなった「Rosanna」には、聴きどころがいくつもある。スティーヴ・ルカサーの低い音域の地味なメロディから入り、サビではボビー・キンボールのハイトーンで一気にテンションが上がるヴォーカルメロディもそうだし、ゴージャスなホーンセクションを使ったメリハリのある展開もそうだ。しかしもっとも注目すべきは、やはりあの独特のリズムパターンだ。「TOTOシャッフル」、「ポーカロ・シャッフル」と呼ばれるアレだ。

基本的にはハーフタイムシャッフルと呼ばれるパターンで、ファンクやソウル、R&Bではよく使われる普遍的なパターンだ。言ってみればなんでもないパターンなのだが、それがジェフ・ポーカロというすごいドラマーの手にかかると、とんでもなく素晴らしいリズムになってしまうのだ。R&Bらしいグルーヴィな雰囲気がありながら、力強く前進するようなロックのドラムになっているのだ。とくにそのすごさがわかるのがイントロだ。イントロはこのドラムだけで始まるのだが、単に曲中のリズムパターンを叩いているだけなのに、きちんと音楽として成立しているのだからすごい。シンプルなリズムのドラムだけで聴かせられるドラマーなんて、世界に何人もいないはずだ。

ジェフ自身、このパターンは、レッド・ツェッペリンのジョン・ボーナムと、R&B畑のセッションドラマーの先駆者バーナード・パーディのパターンを参考にしたと堂々と語っている。ジェフのドラム教則ビデオでもこのパターンを自ら解説しているが、それを見ると、その両者の要素を実にうまく組み合わせて、ジェフならではのグルーヴを生み出しているのがわかる。2ndアルバムの『Hydra』に収録の「Mama」でもジェフはすでにこのリズムパターンを使っていたし、その後TOTOはもちろん数多くのセッションでも様々な曲でこれを使っているが、世界中に広まったのはやはり「Rosanna」のヒットによるものだろう。

「Africa」も、メロディの構成は「Rosanna」と似ている。デヴィッド・ペイチの低音のヴォーカルから、サビでボビーの哀愁あるハイトーンが出てくるところは、目の前が一気に広がるような爽快感がある。

そして独特のリズムもキモだ。ドラマーのジェフの父でパーカッショニストのジョー・ポーカロの協力でたくさんのパーカッションを使っている。それが全体を鮮やかに彩っているし、アフリカのイメージを感じさせるものになっている。ジェフのドラムは全編を通してほぼまったく同じパターンでシンプルに徹しているが、場所によってニュアンスを変化させることで表情を生み出している。変化させているのは音量であったりタイミングであったりといった要素なのだろうが、ほとんど気づかないような微妙なところで完璧にコントロールされているのがまさに職人技だ。「Africa」はシンプルな曲だが、ジェフの存在があればこそ、雄大なダイナミクスを感じるナンバーになっているのだろう。

Past to Present 1977-1990
ジェフ在籍時の貴重なライヴが見られるDVD『Past to Present 1977-1990』。
ちなみにライヴではよく「Africa」の最後に、ドラムとパーカッションで壮絶なバトルを繰り広げる。しかしよく見てみると、ジェフはシンプルなパターンを叩いているに過ぎない。「ド」がつくほどシンプルなプレイなのにとんでもなくカッコいい、これがジェフの真骨頂といえるだろう。


完成度が高いすべての収録曲

『TOTO IV』に収録されるそのほかの曲も、どれも完成度が高く素晴らしい曲ばかりだ。全体にR&Bの香りが漂う楽曲が多いが、メリハリも効いている。せつないバラードの「I Won't Hold You Back」は、スティーヴ・ルカサーの泣きのソロが絶品だ。世界有数のテクニシャンのルカサーが、極端に音数が少ないソロを弾いているのは、逆に凄みを感じさせるところだ。あのマイケル・ジャクソンなどにも曲を提供していたスティーヴ・ポーカロの曲「It's a Feeling」は、抑えた雰囲気に妙にドキドキしてしまうし、アナログ時代のB面の最初の2曲は前作『Turn Back』がよみがえったかのようなハードロックナンバー。そして「Waiting for Your Love」はファンキーなリズムがカッコいい。

いわゆる「捨て曲」がないのもすごいところだ。アルバムには、曲調の隙間を埋めるために作られた曲や、曲数をかせぐために入れられた曲があることも珍しくない。リスナー側でも、アルバム全体は気に入っていても、聴くときについつい飛ばしてしまう曲というのがあったりする。しかし大半のリスナーは、このアルバムに対してそんなことを思わないだろう。冒頭の「Rosanna」のイントロで衝撃を受けてから「Africa」のパーカッションがフェードアウトしていくまでの42分間、飽きることなくTOTOの世界を堪能できるはずだ。

TOTOは、2つの側面からAORのシーンを牽引したといえる。そのひとつは、スタジオミュージシャンとしてAOR系の数多くのセッションに参加したことだ。それによってAORのサウンドの基礎を作り、そしてその音を広めていった。そしてもうひとつがこの『TOTO IV』だ。最高峰のロックバンドが作り演奏する、AORのひとつの完成形を世に送り出したものといえるだろう。


【関連リンク】
キングレコードのTOTOの情報ページ。昨年発売のアルバムなど現在のTOTOの情報を掲載。
TOTOの公式サイト(英語)
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