完成度の高さが光るアルバム
82年発表の『TOTO IV』。グラミー6部門を独占し、アメリカの80年代を代表する1枚でもある。紙ジャケット仕様はデジタルリマスタリングされていて音もいい。 |
このアルバムの制作には、9ヶ月以上もかけたという。これはTOTOのアルバム制作期間としてはかなり長い。アレンジから個々の楽器の音作りにいたるまで、細部に渡ってスタジオで作り込みを重ねたはずだ。TOTOのメンバーは全員がもともとスタジオミュージシャンだから、いつもスタジオにこもってチマチマと音作りをしているのだろうと思う人もいるかもしれないが、実はそうではない。それまでの3枚のアルバムは、ほとんどが基本的に一発録りだという。全員でスタジオに入って、ライヴのように一緒に演奏したものを録っているのだ。
しかし本作では、それぞれの楽器を別々に録って重ねるという方法が、いつも以上に使われているようだ。ライヴのような躍動感というより、楽曲をきちんと聴かせることを重視して、じっくりと作り込まれているように聴こえる。また、どの曲でもすべての楽器の音がクリアに聴こえてくるし、温かみも伝わってくる。時間をかけてていねいに、そして緻密に作られていることがよくわかるのだ。
デジタルシンセの先駆者
80年代の前半は、ロックやポップスにおいて大きな変革があった時期でもある。それは、デジタルシンセサイザーが登場したことだ。それまでのアナログシンセでは表現できなかったような新しいサウンドを使うことができるようになり、世の中はいっぺんにデジタルシンセ一色に染まってしまった。硬いエレピ(エレクトリックピアノ)や、エレピとストリングスが一緒に鳴っているようなあの音は、この時期のデジタルシンセの代表的な音色だ。多くのアーティストがこの新しいデジタルシンセに飛びついたが、そのほとんどは、新たな音色を手に入れると同時に、新たな難題も抱えてしまった。デジタルシンセの音は、従来のアナログシンセの音となじみがよくなかったのである。同時に使えばうまくまとまらないし、すべてをデジタルにしてしまうと今まで使っていたような音が出せなくなり、サウンドがまったく変わってしまう。
誰もがデジタルシンセのうまい使い方を模索している最中に、いち早く解決して新たなサウンドを作ってみせたのがTOTOだったのだ。2人のキーボーディストを擁するTOTOはシンセを大胆に使うバンドのひとつで、独特のアナログシンセのサウンドが「TOTOホルン」と呼ばれるほどだった。この『TOTO IV』ではそういった従来のアナログシンセと、新しいデジタルシンセを両方使っているが、全体のサウンドが極端に変わってしまうようなこともなく、まったく違和感を感じさせない。それでいて、全体を見ればきちんと新しいサウンドに生まれ変わっているのから、さすがというしかない。ちなみに、最初のデジタルシンセであるヤマハのDX7の開発には、マニピュレーターとしても有名な、キーボーディストのスティーヴ・ポーカロも関わったというから、それも当然なのかもしれない。
次のページでは『TOTO IV』の代表曲「Rosanna」と「Africa」のすごさを探ってみる。