アカデミー賞はジンクスの宝庫
本年度のアカデミー作品賞を受賞したクラッシュ |
【主要部門の2年連続受賞はない】
監督賞や主演賞などで連続受賞したことがある人は、たった3人です。はるか昔の1920年代にスペンサー・トレイシーが10回、11回とアカデミー主演男優賞を連続受賞しました。13回、14回の監督賞にジョン・フォード監督が連続受賞。その後は、50年以上たってから、『フィラデルフィア』『フォレスト・ガンプ/一期一会』でのトム・ハンクスの主演男優賞連続受賞があるだけです。ノミネートされ、受賞するだけでも大変な栄誉なわけですから、2年連続受賞がどんなに難しいかがわかります。
【続編は受賞しにくい】
アカデミー賞に続編がノミネートされること自体ほとんどありません。調べてみても、今まで続編、シリーズものでノミネートされたことがあるのは、『ゴッド・ファーザーpart2』『ゴッド・ファーザーpart3』と『ロード・オブ・ザ・リング二つの塔/王の帰還』のみです。『ゴッド・ファーザー』はpart2も作品賞を受賞。『ロード・オブ・ザ・リングシリーズ』も完結編の『王の帰還』が作品賞を受賞しました。
このジンクスに関しては、続編、もしくはシリーズものがノミネートされれば、それだけ作品の質が高いということですから、受賞の可能性が高いという別の見方ができるように思います。
【ファンタジーやコメディも受賞しにくい】
ファンタジーやSFの受賞歴は、29回の『80日間世界一周』と前述の『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』のみです。また、コメディらしいコメディは『アニーホール』ぐらい。コメディのアカデミー賞における地位の低さが伺えます。
一方、ミュージカルもの、戦争もの(特にナチスもの)の受賞の数の多さにはびっくりです。最近は、ミュージカルは流行らないイメージがありますが、『シカゴ』のように良質のミュージカルなら、他の作品より受賞しやすいのでしょうか。
本年の78回のアカデミー賞では、本命視されていた『ブロークバックマウンテン』が『クラッシュ』に敗れる波乱がありました。しかし、このように歴史とジンクスの関係を見てみると、アカデミー賞の極度の保守性が見えてきます。社会の変化よりほんのちょっと歩みが遅いイメージです。
【初ノミネートの女優は受賞しやすい】
男優の場合は、人気者やアイドルだとゴールデン・グローブ賞は取れても、オスカーには手が届かないといわれています。トム・クルーズやレオナルド・ディカプリオ、ジョニー・ディップがいい例です。ポール・ニューマンやアル・パチーノは、何度もノミネートされながら実際に受賞できたのは、初老近くなってから。アイドル的なスターがオスカーを手にするためには、それぐらい待てということなのでしょうか?
それに比べると、初ノミネートの若い女優が、オスカーを取る例は多すぎるぐらいです。古くは、テイタム・オニール、ジョディ・フォスター、マリサ・トメイ。最近では、ジュリア・ロバーツ、ハル・ベリー、ミラ・ソルビーノ、アンジェリーナ・ジョリー、ジェニファー・コネリー、ニコール・キッドマン、キャサリン・セタ・ジョーンズ、レニー・ゼルウィガー、シャーリーズ・セロン、レイチェル・ワイズ、ヒラリー・スワンク、グウィネス・パルトロウなど。
主演級の、めぼしい女優のほとんどが、オスカーを持っているのではないかと思えるほどです。スターと、演技派を隔てる垣根が低いのかもしれません。ところが、女優に限ってオスカーを取るとその後パッとしないといわれたりするのです。
オスカーを獲った女優はその後パッとしない
失礼なジンクスですが、この背景には、女優がやりがいを持てる「いい役」が、男優に比べると、圧倒的に少ないという事情が考えられます。一旦、オスカーを獲ってしまうと、以前そうであったとしても、どんな役でもいいというわけにはいかなくなると思います。女優を取り巻く状況は『デブラ・ウィンガーを探して』というドキュメンタリー映画に詳しく描かれています。女優といっても、働く女性という点では、わたしたちとなんら変わりはないんだなって思わせられる映画です。ジュリア・ロバーツやレニー・ゼルウィガーの長期休業の理由も、そのあたりにあるのではないでしょうか。ジョディ・フォスターもそうですが、自分の仕事に対して誇りを持ち続けるために、いい役がくるまで、焦らずじっと待つという姿勢が見受けられます。そこまでしないと、一流の女優としての立場は保てないのかもしれません。
いかがだったでしょうか? ジンクスは、当たっていてもいなくても、映画界の事情を深く楽しむツールとして、いろんな見方を提供してくれるものかもしれませんね。
【関連リンク】
アカデミー賞受賞結果(オールアバウト映画)
映画芸術科学アカデミー公式日本語サイト