Q8●そもそも企業年金というのは良くない制度なのでは?
最後の誤解は「企業年金は要するにダメな制度だったのだ」というものです。これは本質的に間違った考え方です。日本における退職給付制度の歴史は、退職一時金に始まり、企業年金化が進むというプロセスで充実が図られてきました。このとき、企業年金化する際に年金受け取りだけでなく重要な変化がありました。それは「外部積立化」です。
実は、退職一時金制度は、企業年金制度以上に準備手段としては曖昧な制度です。もちろん、給付する約束は守られなければならないのですが、その資金手当は義務づけられていないため、十分に保全されないことがあります(特に会社がつぶれた時は不安定です)。
企業年金制度は、計画的に外部に積立を行い、退職金の権利を保全する体制を取ります。積み立てたお金は退職金の支払いにのみ使われ、会社の資金のやりとりには使うことができません。また、外部に積み立てることによりその計画の進捗状況も確認できるようになったのです。
もし、企業年金制度がなかったら、景気が悪くなって会社が倒産したときに、JALだけでなく数百万人単位の会社員が退職金の権利を全く失うことになっていたでしょう。
企業年金制度だけが悪かったのではなく、今回の現象の要因は想像以上の長期にわたる低金利状態(債券運用で年2~3%を安定的に稼げないことは日本の企業年金に大きなダメージを与えました)、景気の低迷(100年に1回クラスの株価の値下がりが何度も起き、年金運用を不安定にしました)にあったように思います。
(もちろん、制度は何も問題がない、とまでは言いませんが)
企業年金だけを悪者にしても、本質的な問題解決にはならないし、むしろ会社員の老後の安定を奪うおそれのあることは意識してほしいと思います。
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さて、8つの質問に答える形で、企業年金問題の基礎を整理してみました。
公的年金についての議論もそうですが、誤解が誤解を積み重ねるような議論は良くありませんし、もっともらしい理屈を一度覚えてしまうと、なかなか直すのは難しいものです。
このコラムも企業年金問題の本質にどこまで迫ることができたか分かりませんが、できるだけ簡単な説明をしてみたつもりです。読者の参考になれば幸いです。
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